第3章 海原の煌めきをアナタと···
息をするのも、諦めてしまいそうになるほどの痛みに襲われながらも、アズサちゃんの励ましを頼りに天井を見つめる。
『んっ···んんっ、痛った···い』
梓「ツムグちゃん、頑張って!」
「よ~しよし···頭が出て来たからあと少しだよ」
違和感のある下腹部や股関節、痛みと疲れで、もう何が何だか分からない。
ただわかるのは···あと少し頑張れば、待ち望んだ宝物に会えるという事。
何よりも大事にお腹の中で育てて来た宝物に。
···会いたい、早く。
『痛い···の、来たっ···』
「そのままなるべく長く!···そう、そうそう···アズサさん、手を貸して!」
梓「はい!」
何枚ものタオルを重ねたアズサちゃんが、お医者様の隣で膝をつく。
「もう少し···あと少し···よしっ!」
ズルンっという感覚と同時にお腹の膨らみがへこみ、あれだけ痛かったものが遠のいて行く。
やっと···やっと会えるんだね···
まだ我が子の顔さえ見ていないのに、自然と涙が浮かんでしまう。
「これは···まずいな」
梓「···先生?」
「産声をあげてくれない···アズサさん、急いでオータを!」
オータ兄様を?
どうして···?
急に黙り込むお医者様と、慌てた様子のアズサちゃんをベットから見て不安が大きく膨らんで行く。
無事に···産まれたんだよね?
赤ちゃんは···元気なんだよね?
周りの鈍くなった思考をフル回転させるように状況を確認していく。
タオル越しに赤ちゃんのお尻や足をペチンと叩くお医者様。
どうしてそんな事をするの?
そんな事をしたら、赤ちゃんが泣いてしま···
···そう言えばまだ、鳴き声···聞いてない···
ドクン···と大きく胸の奥が響く。
嘘···そんな訳···
ひとつの最悪な可能性が頭を過ぎり、胸が締め付けられていく。
梓「お願い、オータ来て!早く!!」
部屋の入口から、廊下にいるオータ兄様にアズサちゃんが叫ぶ。
桜「アズサ?」
梓「やっと、産まれたのに···産声があがらないの···」
やっぱり···まだ泣いてないんだ···
アズサちゃんの悲痛な言葉に、溢れ出す涙を止める事は出来なかった···