第3章 海原の煌めきをアナタと···
~ ツキシマside ~
部屋を出されてから、どれくらい経ったんだろう。
最後に窓から見た景色は、夕焼けだったのに。
今はもう、空には月が浮かんでる。
時折聞こえてくるツムグの呻き声や悲痛な叫びが耳を襲い、僕の心を掻き乱していく。
山「オータさん。リンネは寝かしつけました。それからこれ···スガさんからです」
桜「タダシ···ありがとう。ごめんね、今日は子守りばかりさせてしまって。スガにも今度会ったらお礼を言わなきゃだね」
タダシからトレーを受け取ったオータさんが、そのひとつを僕に向けた。
桜「ツッキー、少し食べておかないと大事な時にもたないよ?」
「···いらない」
桜「ツッキー?スガの食事は美味しいよ?アズサの時にも、差し入れてくれたから味の保証はする」
ほら、と横にトレーを置いて、オータさんはそこからカップに入れられたスープに口をつけた。
桜「うん、いい味。俺が店をサボりたくなったら、スガに店番をして貰おうかな?そしたらアズサとリンネと···それからツッキーやツムグや産まれてくる子供を連れてピクニックに行こうか」
フフッと笑いながら話すオータさんに、イラつく気持ちが浮かんでしまう。
「こんな時に、なんでそんな呑気な事が言えるんですか」
桜「だからだよ。あとどれくらい待てばいいのかなんて分からないけど、確実に新しい命はこの世に誕生する。そこから先を思い描くのは、楽しいだろ?」
眉ひとつ歪める事もなく言うオータさんに、僕はそれ以上···何も言えなかった。
血の繋がりのある妹が、扉1枚向こうで痛みに耐えながら苦しんでる。
なのに、きっと動揺してるに違いないのに。
それを微塵も感じさせずにいるのは、強さ···なんだろうか。
思えばケータさんの最後の姿を見た時だって、声に出して名前を叫んではいたけど、そんな中でも他の仲間の事を最優先させて今日までやって来た。
この強さは、僕にも見習えるんだろうか···
力なくカップに手を出して、口元に運んだ時···大きな音を立ててドアが開かれてアズサさんが飛び出して来た。
梓「お願い、オータ来て!早く!!」
桜「アズサ?」
梓「やっと、産まれたのに···産声があがらないの···」
まさか、それって···
桜「分かった。ツキシマ、一緒に行こう」