第3章 海原の煌めきをアナタと···
月「大丈夫?···まだ、痛い?」
冷たいタオルを差し出しながら、心配そうにそっと顔を覗かれる。
『大、丈夫···いま、少し···落ち着いてきた···』
はぁ、はぁ···と、短い呼吸を繰り返しながら、訪れては遠いていく痛みに耐える。
痛みが落ち着いてる時は会話も何とか出来るし、用意された水分を取ることも出来るけど。
そうではない時は、言葉も出ずに、呻く事しか···出来ない。
なんなの、この痛さ···
こんなのどんなケガをした時よりも、苦しくて、痛くて。
アズサちゃんは、リンネが産まれる時こんなに苦しんでた?
私はその時、タダシくん達とバタバタとお湯を準備したり、タオルをたくさん用意したりしてたから気付かなかっただけ?
月「···少し、飲む?」
氷を入れたオレンジジュースを口元に当ててくれて、勧められるままにそれを口に含む。
冷たくて、酸味があるジュースが喉を通り、痛みのせいで汗だくになっている体を落ち着かせてくれる。
···けど!
『い···たたたっ···また痛いの来た!』
月「えっ?!ちょっと?!」
持っていたグラスを慌ててアズサちゃんに渡し、私を抱きしめるように片腕を回してくれる。
月「ねぇ。僕の···使えない腕に捕まって」
『う···で?』
月「そう。痛みの限界が来たら、引き千切る勢いで掴んでいいから。まぁ、そう簡単には千切れたりしないけどね」
はぁはぁと零れる息を飲み込みながら、言われたように腕に自分の手を絡ませる。
子供が産まれたら、自分の手でしっかりと抱いてやりたいから···だから···
これから先の未来を諦めるのはやめたんだ
そう言って感覚がない腕の治療を再開した時の事は、ちゃんと覚えてる。
この腕は、新しい命を抱きしめる大切な腕。
少しでも早く、その感覚が戻ればいいのにと何度願ったんだろう。
早く、出ておいで?
あなたのお父さんは···とか、ここにいるよ···
お腹を見つめ、心でそう声をかけた···その時。
一層激しい痛みが訪れ、無意識に力が入ってしまう。
『あ···あぁっ···!』
月「ツムグ!」
力を入れたせいでお腹がギューッと軋み、そして···
パツン!と何かが弾けるような感覚がして。
···同時に、どろりと生暖かい物が意志に反して流れ出した。