第3章 海原の煌めきをアナタと···
激しい痛みで、気が遠くなる。
ほんの数分程の痛みが···何時間にも感じてしまう。
それでも痛みが静まる時間は合間にあって。
だけど、それも朦朧とした時間へと変わっていく。
梓「ツムグちゃん、しっかり!」
止めどなく流れてくる汗を冷やしタオルで押さえてくれながら、アズサちゃんが声をかけてくれる。
桜「先生···いまどれくらいですか?」
「そうだねぇ。まだまだ半分、ってところかね」
桜「そうですか···」
まだまだ半分···って、どれくらいなの?
あとどれくらい痛みに耐えたらいいの?!
誰か···教えて···
「進行が進んでくれたら、あっという間だろうが···こればっかりは医者の私でも何とも···」
桜「アズサ、俺と代わって。それから、キッチンへ行って薄めたオレンジジュースと、氷水を。あと、ニシノヤとコガネ達に少しでも多くのお湯を沸かすように頼んで来て。リンネはタダシに任せるのがいいだろうね」
梓「分かった。ツッキーは?」
桜「アズサが戻ってくる時に、一緒に」
待って···?
こんなに苦しんでる姿を見せたくない!
『オータ、兄様···ケイくんは、呼ばないで。心配する、から···』
朦朧としながらもオータ兄様の腕に手を伸ばし、今の姿は見せられないと懇願する。
桜「ツムグの気持ちは分かるよ。だけど、彼にはここに居てもらわなきゃダメだ」
『でも···』
桜「ツキシマは父親になるんだ。いや、正確にはもう父親ではあるけど···ツムグ、俺達男ってのは新しく芽生えた命を宿す訳じゃない。母親の体に芽生えた命を、外からずっと見守ってるだけなんだ。苦しくて吐いたり、熱を出したり、少しずつ育っていく命を感じ取る事は出来ない。でもね、痛みを受け流してあげることは出来るんだよ」
『そんな事、尚更イヤだよ···ケイくんが苦しむのは、イヤだ···』
桜「そうじゃないよ、ツムグ。同じ痛みを分け合って、新しい命の誕生を···心に刻むんだ。そしてツキシマもきっと、それを望んでる。全ッ然、顔には出さないけどね?」
穏やかに微笑むオータ兄様を見て、きっとリンネちゃんが産まれる時も、オータ兄様はそうやってアズサちゃんについていたんだろうと思った。
そんな風に支え合う2人に、なりたいと思った···