第1章 入学式
「…夢、か」
私は目覚めて、先程見た懐かしい夢を思い出した。
相手の顔も覚えてないけど、幼い頃にした小さな、それでも大切な約束。
「準備しなきゃ…」
真新しい制服に身を包み、身支度を整えて階段を降りた。
顔を洗って朝食を食べて、玄関で
「いってきます」
と声を掛ければ
「いってらっしゃーい、気をつけてねー」
と元気な叔母さんの声がする。
私は微笑んで、春と言うにはまだ肌寒い外へと一歩踏み出した。
(この辺は桜はまだまだ先だなー…)
なんて思いながら坂道を上り校門を入ると、掲示板の前に人の塊が。
自分のクラスを確認しようと足を向けるが、前にいる人達のおかげで確認できる気がしない。
まあ、女子の平均身長の私で無理ならほとんどの女子は無理だろうと、諦めて少し離れた所にある木の下のベンチで鞄から取り出した本を読み始めた。
「ねえ、君あれ見ないの?」
ふと頭上から声が聞こえて顔を上げると、黒い制服しか見えない。
あれ?と思ってもう少し上を見上げると綺麗な蜂蜜色の髪をした眼鏡の男の人。
大きいなあー。と思いながら
「見たいけど、見れないから」
と言えば、彼はボソッと何かを呟いた。
「え?なに?」
聞き取れなくて聞き返せば
「名前は?」
と聞かれる。
「岡崎優希。…え?見てきてくれるの?」
驚いたように問いかければ
「ついでだから」
と、彼はふいっとそっぽを向いて行ってしまった。
少しして彼は黒髪の頬にそばかすのある男の子と一緒に戻ってきた。
「君、4組ね」
と一言言って校舎へ歩いて行ってしまった彼の背中に、ありがとう。と言って私も本をしまい、校舎へ歩き出した。
-said月島-
「ツッキーが自分から女の子に話し掛けるの珍しいね!」
自分でもその通りだと思いながらも、何でか分からないが足が自然にベンチで本を読むあの子の元へ向かったのだった。
同じクラスに見つけたあの子の名前を思い出して、隣を歩く山口に気付かれないように小さく口元だけで微笑んだ。
とりあえず…
「うるさい山口」
「ごめんツッキー!」
-saidend-