【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第7章 卒業式 (月島 蛍)
「は?無茶言わないでよ。顔も名前もわからない子達から第二ボタンだけ取り返せるわけないでしょ。」
蛍のその言葉に薄い期待は完全に消え去った。
やっぱり、第二ボタン…無いんだ。
期待しちゃダメと言い聞かせながらも、蛍ならきっと…と思っていた。
本当に無いと思うと、突然目の前が歪む感覚に襲われた。
歪んでるんじゃない…これ、涙だ。
「和奏ちゃん?」
私の涙にいち早く気付いたのは、正面に居た仁花ちゃんだった。
「あの…私、部室に忘れ物したかも!ちょっと見てくる。」
私、おめでたい日に、皆の前でこんな事で泣くなんて…。
恥ずかしくなって、思わず走り出す。
人混みを掻き分けて、一直線に。
だから、私は聞こえていなかった。
「僕が追い掛けるから。だいたい…和奏に何も用意してないわけないでしょ。君たち、最後まで本当に余計なお節介してくれるよね…。」
蛍が、私を追いかけようとする影山君を制して言った言葉を。
部室へ向かって走っていたけど、別に本当に忘れ物がある訳じゃないし…。
そう思って、行き先を部室の先にある第二体育館に変更する。
3年間…皆でひたすらに高みを目指して頑張り続けた…思い出の体育館だ。
ガラっと扉を開けて中に入ると、いつもの賑やかさなんて信じられないくらいシーンと静まり返った体育館。
ちょうど真ん中に緩められたネットが立っている。
本当に…卒業するんだな。
もうこの体育館で、汗を流す蛍を見守る事も無いんだ。
そう思うと、止まりかけていた涙がまた溢れ出した。
誰よりも近くで蛍を応援し続けた。
なんて、贅沢な時間だったんだろう。
そんな…大切な時間達に比べれば、第二ボタンなんて蛍の言う通り、取るに足らない物なんだろう。
「でも…欲しかったんだもん。」
小さく呟いたつもりの言葉が、静かな体育館にハッキリとした音となって自分の耳に返ってくる。
「最初から素直にそう言っておいてよ。しかも、部室に行くとか言いながら体育館とか…何のフェイント?」
自分の声よりも大きく響いた声。
振り向かなくても、蛍だとわかる。
「蛍…。」
「中学の時は第二ボタンあげても、全然嬉しそうじゃ無かったから、和奏はボタンなんていらないと思ってた。」
声が段々と近付いて来て、私の後ろで止まる。