【ハイキュー!!】Assorted Box 短編集
第7章 卒業式 (月島 蛍)
「無理矢理むしり取られただけだし。それに和奏だって、別にボタンなんて欲しくないでしょ。」
蛍がさも迷惑そうに言い放つ。
いや、わかっている。
蛍が後輩にボタンをねだられて、丁寧に1つづつ外して渡す様子など、どんなに頑張っても想像出来ないから、本当に無理矢理取られたのだろう。
今日で卒業してしまうというこの状況が、普段は大人しい女の子達を豹変させてしまう効果を持っていることも理解している。
でも…勝手に蛍の第二ボタンは自分の物だと思っていた。
蛍が3年間、一番心臓に近いところで身に付けていたボタン…。
「あ…うん。別に第二ボタンなんて…。」
でもボタンが無くたって、私は蛍の彼女だし。
「おい、嘘つくなよ。皐月、月島の第二ボタンが欲しかったんだろ?」
突然割り込んで来た声に視線を向けると、蛍と同じようにボタンを全て失った学ラン姿で影山君が立っていた。
「そうだぞ、月島!第二ボタンって言ったら普通彼女にあげるだろ!」
握りこぶしを握りながら、日向くんが影山くんに同調する。
「いや、あの…私は別に…。」
蛍の表情から、2人の発言にイライラしている様子が伝わってくる。
せっかくの卒業式をこんな事で台無しにされてはたまらない。
それに、もしかして…と期待している自分がいる。
中学の卒業式では、蛍から第二ボタンをくれた。
「これが制服に付いてると、くれくれって煩いから…和奏が持っててよ。」
ボタンが欲しかったくせに、なんと言い出せばいいのかわからず、半泣きだった私は、すぐに立ち去ってしまった蛍の背中を見送りながら、思わず泣いてしまうくらい嬉しかったんだ。
だから、今回も蛍が私の為に取っておいてくれている事を…期待している。
「あのね、何が普通か知らないけど、少なくとも和奏はそんな物で喜んだりしないから。」
蛍の言葉が、私の期待に不安な影を落とす。
「んな事ねぇよ。皐月の顔見たら、それぐらいわかるだろぉが!取り戻して来いよ!」
私は卒業式なのに沈んでいく心を奮い立たせるのに必死で、影山くんがヒートアップするのを止める事が出来ないでいた。