愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
「いろいろとご迷惑をお掛けしました。ですが、明日もよろしくお願いします。どうか、ゆっくりと休んでください。」
私が個室へ入る前、彼はそう言ってお行儀よくお辞儀をした。
「あ、ご丁寧に、ありがとう……。」
彼は、柔らかく微笑んだ後、廊下の奥へ行こうとした。
「あ、待っ……。」
自分でも分からないが、呼び止めてしまった。
「はい?」
「ううん、何でもない。ぇ、えっと……。また、会えたの、嬉しい。……ねぇ、あなたのことは、何て呼べばいい?」
彼は、ゆっくりと此方へ振り返った。
「ありがとうございます。」
彼はやんわりと微笑んでくれた。
「そうですね……。今は、此処の養子で、奇しくも益田四郎ですからね。ですが、天草でも益田でも四郎でも、お好きにどうぞ。まぁ、あの方の前で“天草”と呼ばれると、少々ややこしいですが。」
彼は、呼び名についてはさほど興味も無いといった具合だ。
「じゃあ、うん。四郎さん、で。」
「敬称は不要ですよ。貴女にそう呼ばれるのは、慣れませんから。」
「え?」
「いえ、何でもありません。とにかく、私に対して必要以上に気を遣っていただく必要は無いということです。いいですね?」
薄暗くてよく見えないが、彼の頬がほんのりと色づいているような気がした。というか、慣れない何も、私は目の前にいる“天草四郎”と、それほど長い時間を過ごしてはいない。
「それでは、おやすみなさい。」
「うん。おやすみなさい。」
疲れているからか、眠気はすぐに襲ってきた。
―――――深く、深く、眠った気がする。
―――――そう言えば、彼の『おやすみなさい』は、ひどく心地が良かった。