愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
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事情は、こうだった。
明日、教会が主催するクリスマスイベントが開かれることになっている。教会が、孤児院の子どもたちを遊園地に招待し、そこでささやかなクリスマスプレゼントを手渡すというものだ。教会が行っているということをアピールするためにも、サンタは教会側で都合しなければならない。それだけではない。今回は対象となる子どもたちの中に、男性恐怖症の女の子がいるのだ。そのために、女の子に近付くサンタには、女性が必要ということだったのだ。女の子は酷い虐待の末に、対人恐怖を抱えていたが、今回はクリスマスイベントでプレゼントが貰えるということで、非常に楽しみにしているらしかった。今までにも、他のイベントがあったりなどはしたが、いずれも参加しようとしなかったか、参加しても途中で参加不能になることばかりだったらしい。それが今回、サンタガールもやって来ると知り、初めて自分からそのイベントへ参加したいと言い出したということで、孤児院の職員も少女にとって何かのきっかけになるのではないかと期待を寄せていた。しかし、サンタガールとして出演するはずだった若い女性は、インフルエンザでダウンしてしまった。明日は到底出演できない。今更、代役のサンタガールを探すことも難しいところに、私が偶然、お邪魔していたという、何とも奇妙な巡り合わせである。ついでに、これについてはどうかと思うが、クリスマスもほど近い休日である明日なのに、私には特に差し迫った用事も無い。
「でも私、サンタなんてやったことないし、不安だし……。」
「それならば、大丈夫です。私には、サンタの師匠としての経験もありますから。」
「えぇ……?」
何故か、彼が横から会話に入ってきた。っていうか、サンタの師匠としての経験って、一体何なんだろう……。江戸時代初期に、クリスマスイベントがあったなんて、聞いたことも無いけど……。
「うむ。流石は四郎じゃ。お嬢さん、ここにはサンタの師匠もおる。大船に乗った気でおれば良い。それに、明日はワシもサンタ役として出演する。」
「というか、私、参加することになってる?」
「あぁ、そうじゃったな。お互い、自己紹介もしておらなんだな。ワシの名前は、茂蔵(しげぞう)じゃ。しげちゃんと呼んどくれ。」