第5章 時間じゃないが、全員集合
「ところで」
ふと湧いた、いたずら心。
エルヴィンは視線に若干の艶を含ませれば、月を背にナナバを捉える。
「もし、私が泣くことがあれば…君は慰めてくれるか?」
ナナバもまた、見惚れる程の笑顔を浮かべて受け止める。
「承知しました。父母の二人、全力でお相手します」
迷いなく即答する彼女と、父母のもう一人を思い浮かべてはやんわり笑むエルヴィン。
「ご不満ですか?」
「いや、心強いよ。母親の酒好きは少々心配だがね」
「それは…そうですね。よく言っておきます」
くぁ… ぐいぐい
そろそろ眠たくなったのか、欠伸をすればエルヴィンの手に頭を擦り付ける"エルヴィン"。
「あぁ、そろそろ行くか。邪魔をして悪かった」
「いえ、私こそ、お引き留めして申し訳ありませんでした」
ーーー
ーー
ー
「ねえ、ナナバ」
「うん?どうかした?」
カリンはキョロキョロと辺りを見回せば、廊下の突き当たりまでナナバを引っ張っていく。
「はいはい、内緒話ね」
どうぞ?と軽く耳を近づけてやれば、カリンは肩に手を触れ耳打ちする。
(団長とお付き合いしてるって、本当?)
「はい!?」
内緒話の内容は、全く予想だにしていなかったもの。一体何がどうしてそうなったのか…
「実は、昨日の夜二人が、って噂になってて」
「あ~、アレか」
「やっぱり本当なのね!?」
カリンにしては珍しい程の食い付きっぷりだ。
「違う違う、たまたま会ってね。少し立ち話ししただけ」
「そう…。ごめんなさい、ちょっと驚いてしまって」
「あ、でも」
(正直、あの視線はヤバかった。危うく持っていかれそうで…思わず本気だしちゃったもん)
「団長は、やっぱり凄い」
「やっぱり!?」
「いやそうじゃない。ナイナイ」
『ナナバに特定の相手がいる』というこの噂には、一部団員の溜め息がおまけについていた。
全て女性が吐いたものだというのを彼女が知るのは、もう暫くしてからのこと。