第4章 空色カメラ
ゆっくりと開く扉。
(開いてる…いらっしゃらないのに…。鍵は、かけなくても大丈夫なのかしら?)
拳一つ分程度だろうか、中を覗くにはまだ足りない。
どうしたものかと暫し思案するカリンをよそに、犬はさらに押し開く。
そして自分が入れるだけ開けば、躊躇なく足を踏み入れた。
「あ、勝手に入っては」
だめよ、そう言いかけ視線だけで犬の姿を追えば、いつも見る執務机に誰かが倒れ込んでいる。
「!!」
「エルヴィン団長…!」
慌てて駆け寄れば、僅かに聞こえてくる規則正しい呼吸音。
「寝て、る?」
窓からは朝陽が優しく射し込み、丁度よい範囲でエルヴィンを暖めていた。
「よかった…。あ、もしかして…?」
(今まで反応がなかったのはこのせい?)
だとしたら納得だ。
しかし、大きくはないが犬は鳴き、ノックも何度かした。にも関わらず目を覚まさないとは…
「お疲れなんですね。もう少し、ゆっくりしてらして下さい」
そう呟き、持っていたマントを広い背中へそっとかけてやる。
「マント、ありがとうございました。お返しするのが遅くなってしまい申し訳ありません」
起こさぬよう、小声で詫びる。
(ほつれのことは…また改めてお伝えしたいです)
これ以上、寝ている相手に一方的に感謝や謝罪をしても失礼だろう。それ以上に単なる自己満足ではないか?と考え込む。
しかし、これだけは、とカリンは引き結んでいた口を開いた。
「…団長、ご無理だけはなさらないで下さいね」
足音を立てないよう離れれば、部屋の中央にきちっとお座りする彼の隣へと膝をつく。
「一つお願いがあるの。いいかしら?」
いいよ、任せて。とカリンを見つめる空色が答える。
「ふふ、ありがとう。団長がおやすみになっているから静かにね」
「誰かが尋ねてくるか、もし誰も来なければお昼前頃に起こして差し上げて?いいかしら」
わふ!
「ありがとう。それじゃ、私は行くわね」
振り返れば、エルヴィンが変わらず寝息を立てている。
「おやすみなさい」
呟きと共に閉じられた扉。
澄んだ空色が遠ざかる足音を見送っていた。