第1章 ショートケーキ(月島)
ふさぎ込んでる私に、ママが大好きなショートケーキをホールで焼いてくれた。
めちゃくちゃ甘くした生クリームをたっぷり塗って、イチゴをたっくさん乗っけてもらった。
美味しくて嬉しくて胸焼けになるほど欲張って食べたのを覚えてる。
で、ひらめいた。
そうだ、蛍ちゃんに持って行ってあげよう、このショートケーキ。
ママに蛍ちゃんに持って行ってあげてもいいか聞いて、許可を貰ったら隣の家にGO。
「けーいちゃんっ」
勝手知ったるなんとやら。
アポ無しで蛍の部屋に上がり込んで、適当にベッドに寝そべっていた蛍を驚かせた。
「、、ひまりちゃん?どうしたの、なんなのいきなり。てゆーか勝手に部屋入らないでくれる?」
そういうのウザいんだけど、と手で追い払われるような動作をされて、少し落ち込んだのも、よく覚えてる。
「ええ?へへ、いいじゃんたまには!蛍ちゃんにプレゼントあるんだよ_って、あれ、蛍ちゃん」
「、、なに?」
「最近さあ、毎日少年団だっけ?バレー行ってたのに、今日は無いんだね?」
バレーから帰ってくるまで待ってようと思ったのに意外といたから、びっくりしちゃったあ、なんて私は言って。
一瞬蛍の顔が強ばって、でもその後すぐに目を逸らした。
今思うとあの時の私は非常に無神経だったのだと思う。
「あ、それはそうと、じゃーん!」
見てみて、とママに作ったケーキを見せると、無表情だった蛍君の顔がほんの少しだけ、微妙に明るくなった。
「ママに作ってもらったのショートケーキ。蛍ちゃんも好きでしょ?たくさんお食べ」
自分の分のイチゴを蛍君の分のショートケーキにたくさん載せて、これでもかってくらい載せて、蛍君に差し出した。
「、、こんなに食べられないんだけど」
蛍君はフイ、と顔を逸らすけど、ちょっとわかりやすく口元をムズムズさせたから、すっごく嬉しいんだ。
私もすっごく嬉しくなって、イチゴ無しのショートケーキを食べて、再び胸焼けを起こした。
蛍君が私に向かってボソッと、「ありがと」と呟いて、その横顔があまりにもわかりやすく赤くしてたから。
もう笑っちゃうよね。