第1章 ショートケーキ(月島)
高校生になると、今度こそ進学先も違えば、お互いに部活もハードだったから、まず会うことはなくなっていた。
一ヶ月に一回とか、ホントにそんな頻度でしか会うことはなくなって。
私は高校では野球部のマネージャーなんてのをやり、しかも結構な強豪校だったから、ほぼスケジュールは部活一色。
蛍も似たようなもんだった。
だからほんっとにびっくりしたんだ。
私が野球部の先輩に振られて、部活帰りに殆ど毎日わんわん泣いてた時期があるのを、蛍は知っていたというのだ。
月に二回しかない部活休みの日に、わざわざ私の家まで来てくれて、ショートケーキを買ってきてくれた。
あの日2人で食べたショートケーキの味は、今でも忘れらんない。
先輩との写真、消せないなあ、なんてベッドの上でグズりながら消去するか悩んでた、そんな時だった。
「、、ひまり?入っていい?」
「、、、わ、びっくりした。蛍?なに、なんで。どうしたの?」
「どうしたって言うか、ん」
ん、と言って差し出してきたのは、商店街のケーキ屋さんのケーキだった。
「これあげる」
「、、え?え?」
「食べなよ、あげるって言ってんだから」
「なにこれ、え?ケーキ?どうしたの?」
「キミがなんとかって先輩に振られて泣きべそかいてるってキミのママから連絡来たから。
だから仕方なく慰めにきたんでしょうが」
ほら、早くお茶入れなよ、とか言って。
全然客人の態度じゃない蛍だけど、でも久しぶりに心が和んだのも事実だった。
「、、ありがとう、、、美味しい」
もそもそとケーキを食べながら、涙を堪えて蛍に言った。
「当たり前デショ。わざわざ僕が部活サボって買ってきてやったんだから」
サボってきてくれたんだ、私の休みに合わせて、わざわざ。
「ほら、もっと食べなよ。ハイ、これもあげるから」
「ねえ、こんなに食べれないんだけど」
「食べれるデショお前、食い意地張ってんだから」
「、、もう失恋したばっかりの乙女にとんでもないこと言うねえ蛍ちゃんったら」
「だからちゃん付けはやめて。気持ち悪いから」
「はいはい」