第4章 禁じられた2人
「あ、そっか。日向は、いつも私より早く来てたもん、ね」
星川が眉を下げたまま、苦しそうに言った。
失恋の傷は癒えてない。全然、全く癒えてない。そんなことは彼女の沈んだ顔を見れば一目瞭然だった。
「一週間ぶりだったから忘れてた。日向はいっつも私がどんなに早く来ても、絶対一番なの。酷い時は鍵も空いてないのに、体育館のドアで先生来るの待っててさ。しばらく待ってたら影山君とかも来て、私いつもほっとかれてた。二人で楽しそうに騒いじゃって。でもそういうの羨ましかった、ずーっと。だからなんだろ、いつも勝手に負けた気分で悔しかったの」
「、、なにそれ。別に自主的な朝練に来る時間に勝ち負けとかないでしょ。
お前ってもっと冷めた人間かと思ってたのに」
「あ、月島君もそう思う?私もこんな自分居たんだって、人を好きになってから知った。恋愛って、人を変えるよね。ホントにそう思う」
なんて、恥ずかしいこと言っちゃった、と言う彼女の横顔をキレイだと思った。
心の底からとてもキレイだと思う。
僕のものにならなくても。
永遠に僕のものにならなくても、綺麗だ。彼女は僕にとってこれからも一番綺麗で神聖な存在だ。
「そんなこと言ったら僕もそうだけど」
彼女が朝練にもボール出しやらなんやらに付き合っていると知ってから、僕も面倒だと行かなかった朝練に自主的に行きだしたわけで。
だから僕も所詮は彼女目当ての不純な目的で部活に行ってた時期も当然ある。
だからなおのこと、好きな人のために部活を頑張っていた彼女のことを責め立てたりは出来なかった。
「?ごめん、なんて言ったの月島君?」
靴を履き替えた彼女が僕へと聞き返す。
それに答えない僕にまた首を傾げたが、スルーしてさっさと体育館へ入る。
パタパタと後を着いてきた彼女に、まずい、と思った。
彼女の予想通りスパイク練に取り組んでいたのは日向だったが、もう一人、居た。
彼女が今、恐らく最も会いたくないであろう人物が。