第1章 ショートケーキ(月島)
「蛍ちゃん!ねえ蛍ちゃん!ひまりの分のイチゴは!!ひまりの分のイチゴ食べたでしょ!!」
小学二年生の春だった。
私の母親が出張、父親も当直で、蛍の家に泊まっていた、夜のこと。
「はあ?知らないけど。お前が自分で食べたんデショ」
しれっと嘘を吐く蛍に腹が立って腹が立って。
おばさんが夕飯の後に、「ひまりちゃんが泊まりに来るから」ってショートケーキを用意してくれて。
あ、その前にトイレに行ってくるから、なんて言って、戻ってきたらショートケーキの上のイチゴが、半分以上無くなっていたのだ。
犯人は間違いなく蛍。
私も前に蛍に似たようないたずらをしたから、その仕返しなんだろうけど。
でも、本当に楽しみにしてたのに酷いと思った。
「嘘だあ、蛍ちゃんが私の分もイチゴ食べたんでしょ!!だいっきらい蛍ちゃんなんか!」
「はあ??お前しつこい!お前の分のケーキなんか食べるわけないだろ!うるさいんだよ!!」
「嘘だ!バカあ!蛍ちゃんのバカああ!!食べたもん!取ったもん、嘘吐き!!
明日先生に言ってやるから!!」
「ふん、勝手にすれば?いちいちそんなことでばかじゃないの?」
「バカじゃない!蛍ちゃんがバカなの!もう、だいっきらい、こうしてやる!」
ぎゃあぎゃあ喚いて、蛍の分のショートケーキをぐちゃぐちゃにして、上のイチゴの部分だけかすめ取った。
そしたら蛍もカンカンに怒り出して、最終的に二人してケーキを掴んで投げ合って顔がクリーム塗れになった。
心配した明洸君が慌てて、
「2人ともケンカしない!兄ちゃんの分のケーキ、やるから。な?仲直りしろよー」
なんてケーキを差し出されて。
そのケーキをどう分けるのかでまた揉めて、取られたら最悪だと思って先にイチゴだけ真っ先に独り占めして食べたら、ついに蛍は泣き出してしまった。
だからさすがに悪いことをしたと謝ったのに、蛍が癇癪を起こして殴ってきたから、私も殴り返して、また大げんかになった。
最後は蛍のお母さんに見つかって結局小一時間たっぷり説教を喰らって、お互いそっぽを向いて、その日は結局そのままで。
次の日の学校もお互いに意地を張ったまま、一言も口を聞かないで登校した。