第3章 大切な二つの贈り物~二つで一つ~
高級感漂うその生地に印を付け、ハサミ入れをしてをしていく。
生地を重ね合わせて、ひと針ひと針ずつ丁寧に塗っていく。
「家康・・・喜んでくれるかな・・・。」
12月中旬の安土はやはり冷える。
火鉢を起こし、部屋を暖めても夜は気温が下がる分手が冷えやすい。
「はぁー」
手に息を吹きかけ、こすり合わせ、火鉢に手を当てながらの作業。
出来るならこの3日で何とか形にしたい。
そう思うと寒くても、眠くても手を止めるわけにはいかなかった。
ふと昔のことを思い出した。
初めて出会った時は素っ気ない態度だったが、傍にいるうちにかけがえの無い存在になった。
今川の残党にやられ、深手を負った時、つきっきりで看病した。
あの時の傷はまだ残っている。
体だけじゃなくて、心にも傷を家康はおった。
あの後から少しずつ関係が変化していき、気が付いたら家康を好きになっていた。
“彼の傍に居たい”
そんな気持ちが強くなりこの時代に残ることに決めた。
それが10年経ち、今では二人の子どもの父親。
厳しくも優しく、信念をもって子どもたちに接してくれている。
それが家康なりの子どもたちに対する愛情だと分かっているからこそ、自分たちの父親は偉大だと伝えてきた。
家長となり、ますます忙しい家康と二人で過ごす時間はかなり減った。
(皆、家康の事変わったって言うけど、天邪鬼な所は全然変わらないけどね!)
一人で今ここに居ない、その家康の事を思い浮かべ笑みを浮かべながら少しずつ仕上げていった。