第3章 大切な二つの贈り物~二つで一つ~
そんなやり取りをしたのを思い出しながら城下を歩いていると・・・
例の話しに出てきた焼き物の屋が見えてきた。
『いらっしゃいませ』
店の中に入ると素焼きされた器や、湯のみ、茶碗などが置かれていた。
『何かお探しですか?それとも絵付体験なさいますか?』
家康「いや、絵は苦手だから別に。」
『誰かに贈り物でございますか?』
物腰の柔らかい歳いった男性の店主はニコニコしながら家康に話しかけてきた。普段話しかけられてもそこまで会話をしないが、何故かこの店主には普通に会話が出来ていた。
家康「祝言を挙げてから10年の記念だからそれに似合う物を探してる。」
店主『左様でございますか。それはそれはおめでたいですな。』
その後も家康は店主の男に勧められ、素焼きされた一組の茶碗を手にし、自分の変わりに絵を描いて欲しい、一つは愛する妻“歌恋に。一つは自分用にと。歌恋用のは家康なりに愛しい妻の事を思い浮かべそれを伝えると、店主は2、3日したらまた来て欲しいと、絵の下絵を描いておくからと。
店を出ると家康は心の中で(本当は自分で何か作った方がいいんだろうけど、その辺は歌恋の方が上手いし。)と自問自答しながらまた城下の道をひたすら歩いていった。