第7章 【聖夜の翡翠princess】第四幕
普段あまり使われない、
マンション一階にあるパーティー会場。
今夜だけダンスホールに姿を変える。
少し薄暗い照明。
落ち着いた大人の雰囲気。
淡い白を基調とした、
華やかでシックな銀世界。
そんな空間が舞踏会を創り出していた。
お互いの手を取り合い、皆んなもそれぞれ音楽に合わせてステップを踏む。
私達はそんなホールの真ん中で、
ダンスをしながら……
「あれ?言わなかった。このマンションの所有者。父さんだって」
「聞いてないよ。賃貸契約してるとしか」
踊りながら、
私は少しだけ頬を膨らます。
いきなりお城に案内するって言われた時は、本当にビックリしたんだから。そう話すと、家康は契約をして、普通に家賃を支払っているからって……
「俺たち二人の新居。だから城」
そうサラッと答えた。
「いくら親子でも、その辺はきっちりしとかないとね」
(でも、本当に王子様みたい)
眩しい金色の髪。
宝石みたいな翡翠色の瞳。
黒のロングジャケットのスーツ。それを、そつなく着こなして、ダンスもちゃんとリードしてくれる。
ダンスを踊れたこと。それが、ちょっと意外だと正直に話すと、家康は照れ臭そうに「別に練習はしてないから」と、口を尖らせて視線だけ横に逸らした。
(つまり、練習したってことかな?)
大人になっても、天邪鬼な所は変わらない。
誰かと練習したのかな?
少し気になったけど……
ーーDVD借りたの?珍しいね?
ーー……ちょっと気分転換。
車内で一度見かけた、ダンスのワンシーンが有名な恋愛映画。
私はクスリと笑う。
「……何?」
「ふふっ。何でもないよ?」
こつんと、ぶつかるおでこ。
今でもたまに見せてくれる、懐かしい姿。
そんな所も大好きだよ。
そう素直に言ったら……
目の前の王子様はどんな反応するかな?
暫くすると突然、照明がパッと消えて……
「……最後のダンスみたいだね」
優しいスポットライトの光。
それが、私達二人の足元だけを照らす。
曲もゆっくりなテンポに変わり。
ムードが溢れる二人だけの世界。
皆んながいるのも、
すっかり忘れて……
隙間なんて一ミリもない。
それぐらい……
お互い体を引き寄せた。