第7章 【聖夜の翡翠princess】第四幕
その時、
カツッカツッ……。
背後から響く、靴音。
そして…
「幼い頃の聖夜。あれが物語の始まり」
聞こえた声。
「サンタからは、地球儀とピンクの靴。
けど、奇跡と魔法も一緒に届いていた」
俺たち二人に。
「石に誓った。必ず、プリンセスになる魔法を贈ろうと」
カツッ、カツッ…
一歩、一歩。
靴音と声が近づいてくる。
「ある少女が手伝ってくれた」
プリンセスになる為に必要な、魔法。
ドレスの準備、届けかたの物語を……。
私はティアラを手に乗せたまま、
(あ、の電話…みつばちゃんだったんだ…)
ようやく気づいて。瞼を落とす。
強く、胸が締め付けられた。
小さい声、途切れ途切れの電話。今、思い返せば電話口の相手は、幼い可愛らしい声だった。普通に考えたら、気付くところなんて沢山あったのに。
(だから、いつも鈍感って……)
瞳を薄っすら開き、
大きく息を吸い、一秒より短く止め。
胸の奥から吐きだす……。
そして……
また、目を閉じる。
……カツッ。
「まだ、そのティアラは未完成」
すぐ側から届いたのは、
じんわりと心の奥に入り込む……
ずっと、聞きたかった声。
ふわりと背中から包み込む、優しくて。
あったかくて、でも……力強い腕。
抱き締められた瞬間。
(い、えや、す…っ…)
堪らず、
瞳から無数の……
ティアラの輝きに負けないぐらい、
そこに、結晶の光が落ちて……
息が詰まった。
「……っ、…うっ……」
溢れだすすすり声と共に、
すぅー…っと、ティアラに溶けていく。
ずっと……
会いたくて、会いたくて。
まさか、こんな……
霞んだ視界。
宝石が散りばめられた……
クリスマスツリーの輝きが滲み……
「翡翠は奇跡の石、
魔法の石と言われているからね」
私の身体を閉じ込めていた腕。
左手だけが、するすると滑らかな生地のドレスを伝い、首元で止まる。ごめん。耳元で急に謝られて、何で?って思うより先に、プチッ…。
(あ……)
首飾りに付いていた石だけを、
家康は器用に取り外した。