第7章 【聖夜の翡翠princess】第四幕
再び……
カチッと音がして分針が進む。
大きな古い掛け時計が、
奇跡と魔法の正しい時を・・・刻んだ。
午後、九時三十分___
ガラス全面に貼られた、
スモークフィルム。
(一体、どこに……)
全長七メートルはあろうかという、真っ白な高級車。今、どの辺りを走っているのか景色の見えない窓をひたすら見続け……
「着いたぞ」
プリンセスは、城に辿り着いた。
気品ある白で統一された高級感溢れる和モダンな外観。グリッド状に構成されたデザインは奥行深いバルコニー。色温度を揃えた照明が、マンション自体を街のオブジェのように表現して佇んでいた。
白い雪が、羽のようにふわりふわりと、落ちる中。
目の前の建物を見上げ……
「え?お城って……ここは……」
ぽつりと声を零す。
白い息を吐き、吹き付ける風に耐えきれず、肩のファーショールを搔き合せる。それでも、夢を見ているかのように、キョトンとした表情で羽を乗せた睫毛をゆっくりと上下。
家康が賃貸契約しているマンション。結婚式後に、自分の住居にもなる場所。それを見上げたまま、驚きを隠せないでいると……
「間違いなく城じゃないか」
「ククッ。ほら、突っ立っていると風邪を引くぞ」
「え?でも、私!今日は合鍵を持って……わっ!!」
手荷物の鞄をサッと奪われ、二人に再びエスコートされながら、入り口に足を踏み入れれば……
(あれ……何で真っ暗なんだろう…)
唯一、手に持っていたプリンセスのオーナメント。
それを握りしめ、明かりが消えたロビー。石目調の大理石のタイルの上を不審に思いつつも、奥へと進む。
いつの間にか二人は姿を消し、
プリンセスただ一人。
静かにしようと思っても、足を動かす度にカツンカツンと固い床にぶつかり、ヒールの音が高らかにひと気のないロビーによく響きわたった。
カツンッ。
真ん中辺りまで進むと、
突然、奥のクリスマスツリーが点灯。
(えっ!……何で!?)
ピタリと足を止め、咄嗟に身体を動かして左右、背後に誰か居ないか確認。
しかし、物音一つもなく。
広がる暗闇。
ゆっくりと、
クリスマスツリーに近づく。