第6章 【聖夜の翡翠princess】第三幕
午後八時半___
再び時計台の公園に戻る。
一日中、履いていたピンヒール。
足も痛みはじめ、指も赤くしもやけになりつつあり……身体も店に入ったり、外に出たりを繰り返して、余計に体温調節が狂い再び外に出ると、みるみると冷えはじめた。
ツリーの近くまで移動。
そこに、家康の姿はない。
(何も連絡がない。……オーナメントも、結局どこにも……)
何だか、どんどん
心も凍えていくような気がして……
鞄の中から出しては携帯電話の画面を何度も、何度も確認して、白い息を吐きながら、その場に丸々ように蹲り、降り積もった雪の絨毯を見る。
自分から連絡すれば良い。
そう思いつつも、病院勤めの家康に迷惑がかかるんじゃないかと、踏み止まり、携帯の画面に滑りかけた指を離す。
(迷惑かけちゃ、だめだよね……)
急患、急用があることはちゃんと理解している。現場の大変さは、おばちゃんの昔話から聞いていた。それに、今までも会えなかったり、遅れたりすることは一度や二度だけじゃない……でも、今夜みたいに全く連絡がないのは、はじめて。
不安は気づかない内に、
少しずつ雪のように積もり……
寂しさが追い討ちをかけるように、その上から降り注ぐ。
出入り口付近で聞いた会話。
ーーあの。私も実は、夕方で上がりで……そ、の……。
家康はきっぱりと突き放してのは、しっかりと聞いていた。そのはずなのに……寒さで感覚を失いはじめた耳。思わずぎゅっと、氷のように冷たくなった手で、塞いでしまう。
嫌な考えが浮かぶ前に、
ゆっくり、立ち上がり……
(もう、帰ろうかな……)
じんわり、熱いものが目頭に浮かぶ。
今夜のデートの行き先もわからない。
マンションの合鍵も、
家に置いてきてしまっていた。
最後に……
最後にもう一度……
待ち合わせ場所を、
ぼやけかかった視界の中に映した。
飾り付けがない、
シンプルなクリスマスツリー。
キラリと光る石。
(え……。な、んで……)
かじかんだ指を唇にあてる。
そこに一つだけ……
みつばちゃんが作った……
プリンセスのオーナメントが……
飾り付けられていた。