第6章 【聖夜の翡翠princess】第三幕
午後、六時__
勤務時間が終わり。
ロッカーで白衣を脱ぎ、着替えを取り出す。普段通りにしているつもりでも、機敏に体は動き帰る支度は早い。
白衣を素早くハンガーに吊るす手。
ジャケットも、その上にコートを羽織る動作。全身でひまりを求めている自分に気づき……
ロッカーを閉めた瞬間。
(……ほんと、相変わらず。……こればっかりは、どうしようもないけど)
呆れて笑みが溢れる。
早く、この腕で抱きたい。
下手したら本当に今夜は、
一睡も寝かしてあげられないかも。
最後に会った日。
あの首飾りに触れ……
ーー聖夜は、寝かせないから。
耳元でそう囁いた。
ひまりは頬にかかる髪を摘んで、ゆっくりと指を滑らせ、恥ずかしそうに俯いた。何にも言わないから「わかった?」って、可愛い反応をみたくて、わざと聞いたら……
頷くわけでもなく。
返事は言わなかったけど。
ただ……静かに俺の胸に顔を寄せる姿が、堪らなく愛しかった。
腕時計で時間を確かめ、
クリスマスプレゼントが入った紙袋、三田さんに貰った紙袋、そして一冊の本を持って、更衣室から出た時……
近づくサイレンの音。
ピタリとそれが、病院入口で鳴り止む。
バタバタ走るナースサンダルの足音。
「……先生っ!急患です!夜間当直の先生が、雪でこちらに来るのが遅れていて」
急患の名前を聞き、息が止まる。
背筋が凍てつく程の悪寒が走り……
バンッ!!
再び白衣を羽織り、袖を通したか、通していないかさえ自分でもわからないぐらい……
俺の足は早々と廊下を走る。
ガラガラガラガラッ…!!
運ばれてきた一台の担架。
横たわる白いダッフルコートを見て、
「みつばっ!!」
俺は叫んだ。
雪のような白い肌に触れ、震える。
急いで心音を確かめ、
器具が揃う治療室へと向かった。