第6章 【聖夜の翡翠princess】第三幕
さっきみつばが言いかけた、
ツリー……。
話の途中でその先が気にはなったが、少しでも長く両親と過ごす時間を与えてやりたい。俺はもう一度「無理は絶対しないこと」そう、みつばに念を押して、小指を絡ませて約束させ、差し出された重みのある紙袋を受け取る。
三田さんご夫妻に、何かあった場合はすぐに病室に連絡して下さい。と、伝えた後、看護婦が準備してきた書類に、サインを貰う。
「先生!ちゃんと、お写真とってきてね!」
「わかってる。明日のクリスマス会に、持ってくるから」
みつばに頼まれ、すぐ現像できるようにポラロイドカメラを佐助から借りた。積雪がはじまった地面。まだ、誰の足跡もついていない白い絨毯に、大きさの違う一筋の道をつくり……
雪を溶かしていく。
俺は白衣のポケットに両手を入れ、
白い息を吐きだして……目を凝らす。
両親と手を繋ぎ、白いダッフルコートを着込んだ背中がどんどん小さくなっていくのを見送り、暫く降り注ぐ牡丹雪に目を奪われ、身体が冷え切った頃……中へと戻る。
交代まで残り一時間半。
二階に戻るのにエレベーターを使わず、螺旋階段の方に向かって廊下を歩く。静まり返った薄暗い中、隅に何かが光るのが視界に入り……
白衣から片手を出して、それを拾う。
(人形……?)
とんがり帽子に、紫色のローブ。
大きめのビーズで作られた両目。フェルト素材のピンク色の頬。絵本に出てくる一般的な年老いた魔法使いとは違い、愛らしく幼い印象。
帽子のてっぺん部分に、輪っかのような紐が縫い付けられているのを見て、みつばが握りしめていた人形を思い出す。
ふわっと、鼻につく香り。
俺の手の平より小さいそれから、微かに甘い花の香りが届き、落とし主を俺に教える。
ひまり……。
思わず溢れた笑顔。
ーーみつばちゃんに渡したい物があるから。私も、クリスマス会、参加して良い?
今夜の待ち合わせ場所。
その件で、
電話をした時の会話を思い出す。
俺はポケットにそれを仕舞い……
螺旋階段を上った。