第6章 【聖夜の翡翠princess】第三幕
白衣の袖からチラッと腕時計を覗かせ、両親がそろそろ迎えにくる時間なのを確認すると、俺は首に掛けてる聴診器の耳管部を両手で開き……
耳に装着。
「ほら。良い加減、口閉じて。ゆっくり呼吸して」
聴診器を当てる前に、チェストピースの部分を手で温め、みつばが冷たくて不快な思いをさせないよう、注意を払う。
目線を横にして、イヤーチップの片方に触れ、チェストピースをあてる。
心音や心雑音、
頸動脈雑音、呼吸を順番に聴き……
(心音は綺麗だけど、呼吸は乱れてるな……)
一旦、外して。
「苦しい所、痛い所ない?」
顔色を確かめる。
「ないよっ!」
「ちょっと、呼吸が苦しそうだけど……」
今日の一時帰宅を、楽しみにしているのは知っている。外泊をやめさせたい訳じゃない。けど、体調が悪いのに無理をしていないかを、最善の注意を払うのが担当医としての責任。
大事な命を預かる身。
個人的な意見とは、
しっかり隔てて判断する必要がある。
俺の問いに、みつばは綺麗に結われたお下げを、横に揺らす。
「いっぱい喋ったからだよ!それより、先生!ちゃんと、じゅんびオッケー?」
「あぁ。何たって、魔法使いが良いシナリオ作ってくれたからね」
「へへっ///だって、先生もひまりお姉ちゃんも大好きだからっ!あとはねっ!実は石はツリーに……」
ツリー?
そう聞き返そうとした時。
コンコン。
「失礼します。書類をお持ちしました」
看護婦が病室へと入り、
その背後から……
「みつば」
「お父さん!お母さん!」
扉の前に穏やかな表情を浮かべた夫婦が立っていた。手に紙袋を下げ、静かに病室の中に入り会釈するのを見て、俺は立ち上がり頭を下げる。
「先生。いつも、ありがとうございます。これ、大した物ではないのですが、宜しければ今夜、婚約者の方とご一緒に」
「すいません。お気遣い頂いて……みつば、外は寒いからしっかり着込んでいきなよ」
俺はみつばの頭に手を乗せ、
軽くポンと叩く。