第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
一目も、一度も姿を、
見ることが出来ないまま……
遠ざかる靴音。
(行っちゃった……)
結局、声は掛けれなかった。
(看護婦さんも入れ替わったりして、中には知らない人も沢山いるよね)
それに知っていても……
一般家庭の一人娘と、院長の一人息子。
説得力に欠けるのかもしれない。
普通なら、どこかの令嬢さんと婚約するような家柄。でも、私にとったらお父さんもお母さん、ほんと自慢の両親。不満なんて一つもない。家康も、さっきみたいに態度ではっきり示してくれる。ただ、さっきみたいな場面に遭遇したら、ちょっとした不安はどうしても付きまとう。
でも……信じてるから。
カツッ!
気が抜けていたみたい。歩き始めてすぐに膝がカクンとなり、何もない場所で躓く。その拍子に、廊下の手摺部分に鞄が引っかかり……
「きやっ!!」
バサッ。
落ちて、床に中身が散らばる。
慌てて携帯や、財布を拾い、家康のプレゼントの箱が壊れていないか確認。どこも損傷がないことに胸を撫で下ろして……
出入り口から外へ。
「今夜は、ホワイトクリスマスかな……」
薄っすら積雪を始めたコンクリート。そう、独り言を呟いてから、マフラーに顔をすっぽり埋める。
吹き付ける、冷たい風。
羽織っていた生成り色の、ロングのダッフルコート。前の金具をカッチリと止め、入り込む風を防ぐ。灰色の空から、花びらのような白いふわふわの雪が降り注ぐ。それを、手のひらに乗せて……溶けていく様子をしばらく見つめ続け、病院前のバス停に向かう。
午後四時前。
雪が本格的な大粒に変わり、ベンチに座りながら、待ち合わせ時間までどっかのカフェで時間を潰して、少しウィンドゥショッピング楽しもうかな?とか、何処に連れてって貰えるのかな?
プレゼントどうやって渡そう?
今日の格好、
可愛いって言ってくれるかな?
今夜は……
ずっと一緒にいたいな。
バスが来るまでの間。
そんなことばかり、考えていた。
〜聖夜の翡翠プリンセス〜
to be continued...