第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
徳川病院___
個室病室の前。
拳をやんわりと作り軽くノック。
コンコンッ。
はーい。
返ってきた明るい声。
引き戸タイプの白い大きな扉に手をかけ、静かにスライドして開くとカツンッ。踵を一つ鳴らして中に入れば……
「ひまりお姉ちゃん!」
素敵な笑顔がベットの上に咲く。
「ごめんね。少し遅れちゃったかな?」
「また、五分ちこくだよ〜」
白い花びらのような雪がチラつき、
それを映しだす窓。半分ぐらいまでカーテンが引かれていた。
見てるだけで寒くない?そう、尋ねながら近づくと「雪がすきだから」と、みつばちゃんは読んでいた本を閉じて姿勢を正す。
私はニッコリ笑い、病室の隅に重ねられたパイプ椅子を一つ持ち上げ、ベットの横まで運び、腰掛けた。
「よし!みつばちゃんのお迎えが来るまでに、頑張って仕上げようね!」
「うん!後は、プリンセス〜!」
ベットサイドテーブルから、みつばちゃんは手を伸ばして裁縫道具の中から、針と糸を取り出すのを見て、私も鞄の中にある物がちゃんと入ってるか、確認。
「冠がむずかしい……」
「ふふっ。ちょっと、曲がってるもんね!えっとね、こうゆうときは……ここをこうして……」
私が縫い方と手と指の動かし方だけ教えると、ありがとう!無邪気な笑顔が返ってくる。
その表情は、ランドセルを背負ってすれ違う普通の元気な女の子に見えるのに……。
そう、思うと胸がキュッとなる。
私は手を伸ばす。驚かせないように、そっと綺麗に両サイドで結ばれたお下げの片方を撫で……
「後もう少し!頑張ろうね!」
「うん!後、一時間後にはお母さんとお父さんが来ちゃう!」
顔を見合いっこして、一緒に頷く。
この女の子は、三田みつばちゃん。小学一年。今年の春に研修生からお医者さんになった家康が、一番最初に担当医になった患者さん。生まれつき心臓の持病を患っていて、まだ体力的に手術が難しく、動いたりするとすぐに息が切れたり、特にこの寒い時期は気をつけないと、発作が起きやすいって、家康から聞いていた。