第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
雪が今にも降り出しそう。
灰色の雲が空を覆い尽くし始める。
普段見れば、この空の色は憂鬱な模様。でも、クリスマスイブという気持ちがあるから決して気分は重くなくて、ホワイトクリスマスなれば良いなって、呑気に考えていた。
(秀吉先輩。どこかな?)
首を左右に動かして、辺りを見回す。
神社の中は、普段賑わっている雰囲気とは違い、今日はほとんど人影が無い。がらんとした境内は寒々しくて、鳥居の赤色だけが静かに自己主張している。
拝殿の脇の近くまで足を進めると、見えた二つの影。白い着物に水色の袴の秀吉先輩の姿。そしてもう一人はグレーのスーツ姿の……
「……あ、明智先生!?」
「クッ。どうした?昼間から間抜けな声を出して」
思わず大きな声が出た。
ヒールで転ばないように気をつけて、砂利道を小走りして二人に近づき、声をかける。
「どうして、明智先生が?」
「夜に用があるからな。ただの時間潰しだ」
「お前が今日来る予定だと話したら、一度顔を見ておくかってな。先生も一緒に待っていた所だ」
「ふふっ。寒い中、ありがとうございます!ご無沙汰しています」
事情を聞いて、私は改めて二人に挨拶。高校時代、弓道部の先輩でありお兄ちゃん的存在だった秀吉先輩は、この神社の跡取り息子さん。今は神主さんになり、今度、私と家康の神前式で式次第、進行をお世話になる。
明智先生は、戦国学園の保健教員。高校生の時、揶揄われてばかりだったけど、本当は優しくて素敵な大人の先生。織田先生とは、また違う形で色々支えて貰ったことは今でも忘れない。
「立ち話もなんだ。中に入ってゆっくりしていくか?今日は、イブだからな俺も手が空いている」
夜は空いてないけどな。
意味ありげな言葉を軽い口調で言い、笑顔を浮かべる秀吉先輩。相変わらずモテモテさんみたい。
「ふふっ。お正月には、凄い人でなかなか話せないですからね!でも、今日はこの後、政宗の所に行って、病院にも行く予定で……」
「病院か。クッ。勤務中の家康にでも会いに行くのか?」
明智先生にそう聞かれ私は首を横に振り、みつばちゃんっていう小学一年生の女の子に会いに行く事を伝える。