第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
走り出した車。
私は助手席に座り、
シートベルトを付ける。
普段はなんの変哲もない住宅街。
昼間の今は、明るくてわからないけど。夜になるとそれぞれの家が門や塀や庭にクリスマスイルミネーションを施し煌びやかに輝く。
私の家は、ストレートタイプのライトを塀と門にちょこっとひっかけておくのと、雪の結晶や小さなサンタクロースのモチーフ、玄関にリースが飾ってある。家康の家は、住宅街での中で一番の豪邸。落ち着いた青白いイルミーネーションライトが家全体を点灯して、夜になるとまるでおとぎの国に迷い込んだみたいに。
そんな住宅街から抜け、
車は大通りに入る。
スピーカーから流れる、クリスマスソングを小声で口ずさんでいると、おばちゃんに最近、家康と会っているかと尋ねられて……
シート全体に背中を乗せ、
「今月は、あまり会っていなくて。実は、二月の新婚旅行。まだ行き先も予約も……」
私は思わず苦笑い。
家康に、好きに決めて良いから。って、言われてはいた。けど、やっぱり二人で決めたい。二月に有休で二週間お休みを貰う分、お互い今月は特に忙しい。
おばちゃんは「そっか……」
前を向いてそう言った後、スピーカーの音量を少し下げる。
「ちょっとだけね。心配していたの。ひまりちゃんが寂しい思いをしてるんじゃないかしら?って」
「……おばちゃん」
「新婚の時にね。主人と一度だけ大ゲンカしたことがあるのよ〜。……自分も看護婦として現場の忙しさが、分かっていたのにね」
軽い口調が、途中から重い口調に変わる。おばちゃんは喧嘩した理由は話さなかったけど、綺麗な顔立ちの横顔に少し影が落ちる。
その後に……
「この歳になっても時々、寂しいもの」
含み笑いをして、それっきりだった。