第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
家康の為にですか?
私がそう尋ねると、おばちゃんはまるで時間を手繰り寄せるように障子窓に視線を一瞬だけ移して、また正面に戻すと……
スッと手入れの行き届いた綺麗な手を、伸ばして……
「家康とひまりちゃんが、五歳の時だったかしら?クリスマスイブの昼間にね。不思議な出来事があったの」
優しい含み声で、言葉の終わりをかき消すようにぽつりとそう言い、たとう紙を撫でながら話を聞かせてくれた。
それは、まだ私達が幼い頃のクリスマスイブの日。何でも、おばちゃんは一足先に、お正月に着る晴れ着を出しておこうと、滅多に踏み入らないこの和室に、家康と訪れた時の出来事みたいで……
「一枚、一枚、あの子に見せながら相談してたんだけどね。あの子ったら、どれも首を振るのよ。お父さんみたいに、格好良い着物が良いって」
「ふふっ、家康。その頃から、おじさんに憧れてたんですねっ」
「あの人の仕事上。なかなか、家族団らんで過ごせる日がなかったから、余計にかもしれない」
クスクス。当時を思い出すように、
おばちゃんは笑う。
「あの頃は、特に真似したがる時期だったからね〜」砕けた調子の口調を聞いて、私自身もそういう時期があったのを見覚えがあります。と、笑い返す。
五歳くらいの頃。
よくお母さんのヒールの靴を履いて、玄関でカツカツ踵を鳴らして遊んでいた記憶が薄っすら。覚えていると言うよりも、後で聞かされて頭の中に残っている。
「大きくならないと着れないけど、って説明だけして、代々伝わるこの礼装を見せてあげようと思ってね」
けれど、探しても探しても見つからず途方にくれていた時。
鳴った一つのベル。
そのタイミングに、
私が遊びにきたみたい。