第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
リビングに、入ると……
コーヒーの香ばしい香りが、朝の親密な空間を漂わせていた。
キッチンに立つお母さんに挨拶して、そのまま背中を向けてソファに座るお父さんに、挨拶。
「たまの休み、ゆっくり寝てても良いんだぞ」
「ふふっ。ありがとう。でも、たまにのお休みだから、朝からスケジュールがいっぱい」
家康の頼まれごとをしに、朝からおばちゃんの所に行って、秀吉先輩の神社へ。それから、政宗の所でお昼ご飯食べて、みつばちゃんに会いに行く。
その用事を話すと、
コーヒーを片手に、一瞬だけ私を見ると「慌てん坊のサンタみたいだな」と、愉しげに笑う。
私の大好きな匂いが鼻について、お母さんの方に顔を向ければ、ジュワッと熱したフライパンから卵を焼ける音。
「特性のふわふわオムレツ作ってあげるから、待ってなさい」
私は元気よく返事をして、カップにコーヒーを注いでミルクを入れ、新聞を読むお父さんの隣に座る。
「今夜は、家康くん所か?」
「うん。休日でも今日は、昼間の当直医みたいだから。夜間の人と交代してから、会う約束してて」
「そうか……。寂しくないか?」
私はカップに口をつけたまま……
間を少しだけ開けて……
「……幸せだよ」
ぽつりと呟いた。
寂しくないって、言ったら嘘になるかもしれない。だから、そう答えた。するとお父さんは、小さい頃みたいに頭に、ポンと一つ優しい重みを乗せた後、静かに新聞を読み始めた。
その横顔は、わびしさもどことなく喜びの色も浮かんでいて。
ーーえ?式が終わってから?
ーーおじさんとの約束。新婚の間、マンション暮らしする代わりに、式が終わるまでは同棲はしないって。
ーーお父さんが……そっか。
ーー……おじさんにとったら、大事な一人娘。そのひまりを、お嫁さんに貰うから。それぐらい、我慢する。
私はゆっくり
ミルク入りコーヒーを、一口飲む。
甘くてほろ苦い……
でも、あったかい。
何だか、お父さんみたいな味だなぁ。
って、ふと思って……
「ありがとう」
飲み終わった後、そう呟いていた。