第5章 【聖夜の翡翠princess】第ニ幕
【聖夜の翡翠princess】※第ニ幕
24日、プリンセスのオーナメント。
二十四日。
真っ先に窓を開けて……
雪が降っていないかを確かめた。
正面から風を受け、顔全体が強張るほどの寒さに、肩にずり下がったストールをしっかり掛けて白い息を吐く。
明けたばかりの空が、朝の冷気とともに新鮮に輝いていて……
ピンク色のカーテンを掴んで、部屋の中を見渡す。隅っこに二、三個積み上がったダンボール。中身は主に衣類。
(この部屋で、この家で過ごすのも後もう少し……)
しんみりするような心境でもないのに、つい鼻がツンと痛むのはたくさんの思い出が、詰め込まれているからかな。
遠くにお嫁に行く訳じゃない。
新婚の間は、マンション暮らしでも嫁ぐのは二件挟んだ先のご近所さん。ゆくゆくは、こっちに戻って家康のお家で暮らすことになっている。
思い出を辿るように窓を閉めて、壁をつたい歩きするように手を滑らせ、机の前に立つ。
四角い箱。
オルゴールを手のひらに乗せて、
パカっと蓋を開ければ……
じわっと込み上がるモノ。
「……っ、もうっ。朝から」
最後の約束。
それを見て、目頭がジンと熱くなって雫がそこに落ちる。
蓋を閉じて、織田先生がくれた石碑のレプリカと一緒に胸に抱き……
暫くの間。
その場にしゃがみ込んだ。
三つ葉のヘアピン。
三つ葉の栞。
三つ葉のピンキーリング。
そして、最後の約束。
この思い出は、この部屋に置いて行く。
この部屋が私のタイムカプセル。
いつでも、開けれる……
コトリとレプリカを置き、着替えを始める。高校生の時のように、慌ただしく、高校生の時とは違う服装に身を包む。
お気に入りのリップが、
ルージュに変わって。
大切なヘアピンが、
ピアスに変わって……
その中で唯一、
髪の香りは変わっていない。
家康と思いを通わせた、
あの日から……一度も。
『永遠の愛』その花言葉をもつ、ピンク山茶花の香りを付けて、私はリビングに向かった。