第4章 【聖夜の翡翠princess】第一幕
さっきのお店『sengoku』も、そのうちの一つ。実は、隣接して真横にジュエリー工房もあって、同じようにオーダーメイド出来る。お店の外観も中も全然雰囲気が違って、高級デパートのジュエリーショップと感じが似ている。
薬指に光る婚約指輪。
これは、そこで家康がオーダーメイドしてくれた物。凄くデザインが可愛くて、裏に刻印してある言葉を見て、大泣き。本当はプロポーズの返事。もっとちゃんとしたかったのに、涙で顔はぐちゃぐちゃ。
家康は笑いながら、あの顔は一生忘れない。って、今でも時々、思い出したみたい揶揄ってくるけど。
(……でも、本当に嬉しかった)
あの、プロポーズは。
それこそ、一生忘れない。
指輪を外して、親指の柔らかい部分で、刻印の文字をなぞっていると……
車が停車。
いつの間にか、家の前に。
私は慌てて指輪をはめ、
足元から鞄を拾う。
「ありがとうございました。また、お正月明けにでも、以前にお願いした結婚指輪を、家康と一緒に取りに伺います」
「あぁ。たまには、学園のほうに顔を出せ。先に言っておくが家康はいらぬが、な」
「ふふっ。披露宴の先生のスピーチ。楽しみにしてましたよ?」
一体、何を言い出すか……。ブツブツ文句を言っていても、表情は嬉しそうだったことを伝えると……
「いきなり、新郎を叱責してやるのも、滑稽で良さそうだな」
先生の横顔と声が心なしか、柔らいだように見えて、優しく聞こえた。
走り出す赤い車を見送る。
急に冷たい外気を浴び、かじかむ手に白い息を吹きかけ、中に入ろうとした時。
携帯の着信が鳴る。
画面に表示された名前。
【徳川家康】
「……もしもし?家康?」
嬉しくて自然と声が弾む。
お仕事終わった?と、聞けば短い返事が返り、お互いお疲れ様と言い合う。
「ひまり。今、どこ?」
「ん?家の前だよ。さっき、用事に行ったら織田先生に会って、送って貰った所だよ?」
「………何もされなかった?」
「ふふっ。また、そんなこと言ってると披露宴のスピーチで、いきなり怒られちゃうよ〜」
先生との会話を思い出して、冷たくなった手を握り、顎に添えてクスクス笑うと「あの人なら、やり兼ねないけど」って、久々に不貞腐れた声が電話越しに聞こえる。