第4章 【聖夜の翡翠princess】第一幕
「良かった〜。イメージ通り」
安心したように、胸をなで下ろす。
落ち着いた輝きを放つ、金色のネクタイピン。真ん中に葵紋と、その左上に翡翠の小さな石。優雅でスタイリッシュな感じ。光沢感のあるシルクのネクタイに付けても、全く違和感がなくて……
一つに溶け込むように華やかさがプラスされ、家康のイメージにピッタリ。
(明日、喜んでくれるかな?)
ピンを指先でなぞり、私は目を少し細め下唇を噛むように歯をあてる。
渡す時のドキドキ感が、くすぐったいけど、笑顔が見れるかと思うと、今から明日が待ち遠しい。
「ほぉ……。徳川家の家紋か」
「はい。真っ先にデザインが頭に浮かんで……え???せ、先生!?」
素っ頓狂な声を上げ、右にサッと思わず飛び退く。すると、相変わらず織田先生はニヤリと口角を上げ、失礼なヤツだなと、私の頭に手を乗せ……
「恐らく今日、取りに来ると思ってな。……暗いから、送ってやる」
後で、駐車場に来い。
さりげない声でそう告げた後、店員さんに何かを耳打ちして、私の返事も聞かずに、先生は店を出ていく。
(ふふっ。遠慮してもだめみたい)
私はお言葉に甘えることにする。
「クリスマスカード。添えておきますね」
「ありがとうございます!」
綺麗にラッピングされた箱。リボンの隙間に添えられた緑色のカード。私はそれを受け取ると、真っ先に駐車場に向かった。
裏手に停めてあった、赤い高級車。
私は助手席に乗り込む。
「素敵なお店ですね!」
「フッ。あの店は副業だ。それより、いつまで先生と呼ぶつもりだ?あれほど、名前で呼べと言ったはずだ」
「例え、卒業しても先生はいつまでも、私の大切な先生ですよ?」
そう言うと、ハンドルを握った先生の横顔が、一瞬だけこっちに向く。
「その台詞。馬鹿が聞けば、妬くぞ」
私はクスクスと笑い、本当ですから。と、答えれば、先生は微笑して、顔を正面に戻した。
織田先生の本業は、今でも戦国学園の歴史担当の先生。超セレブで、副業で色んな業種の会社経営をしていると知ったのは、高校生を卒業してから。あくまでも、私は。他の皆んなは知っていたみたい。