第4章 【聖夜の翡翠princess】第一幕
月が浮かび始めた、仕事の帰り道。
帰りを急ぐサラリーマンの後ろを付いていくように、電車を乗り継ぎ、駅から街路灯が道の両側を飾っている、少し狭い道を暫く歩けば、一軒の店に辿り着く。
ネクタイピン、カフス専門のハンドメイド工房『sengoku』(センゴク)
一見、高級呉服店みたいな和モダンな外観。このお店は、歴史も大切にしていて「繋がり」があるように、一つ一つに職人さんの繊細な作りが魅力の人気店。
私は鞄の中にある物がちゃんと入っているか、再度確認。そして、引き戸を開けて、中に入れば……
「いらっしゃいませ!」
元気な声と素敵な笑顔で、
一人の店員さんが出迎えてくれる。
「すいません。姫宮です。今日は、お願いした物を取りに来ました」
二十歳前後ぐらいの店員さん。私がカウンター前に移動すると、すぐさまジュエリートレイに注文をお願いしたネクタイピンを乗せて、出してくれた。
「ラッピングはどうされますか?」
「すいません。出来れば、このネクタイに付けて頂いて、ラッピングして貰えませんか?」
鞄の中から長細い箱を出して、パカっと蓋を開けて見せる。
そこには、家康のクリスマスプレゼントに作った、深い翡翠色の上質なシルク素材を使ったネクタイ。
瞳の色と合わせようか悩んだけど、タキシードは黒にしたいなと思って、濃いめの色にした。
「ご注文なさったネクタイピンに、ピッタリですね!生地も色味も凄く素敵」
「ありがとうございます。結婚式の時に、着けて貰えたらなって……」
本当はタキシードを、プレゼントしようとしたんだけど、仕事が思った以上に忙しくて、デザイン画しかまだ出来ていない。だから、それは誕生日プレゼントにする予定。
結婚式当日は、
家康の生まれた大切な日だから。
店員さんは心良く了承してくれて、素早く布手袋を装着。箱から丁寧な手つきでネクタイを取り出して、真ん中の左側にピンを付けて私の前に、スッと見せてくれる。