第8章 板の上の魔物[簓]
『もうええわ!やめさせてもらいますぅ!』
お休みだった金曜日の午後。
偶然つけたテレビの向こうで、芸人の白膠木簓が喋っていた。
テレビで“白膠木簓”を見ると、私はいつも笑ってしまう。私を笑かすなどやりおるな、と何様か分からない目線でいつもテレビを見てる。言うこと言うこと私のツボなのだ。変なオヤジギャグは、ツボではないけど。
そんな彼は、なんと私の高校の頃からの友人だ。
なんか特別な、運命的な出会いとかをした、ということは無い。
高2の時、偶然放課後の教室で2人きりになって、好きな芸人さんが一緒やったからって、なんとなく仲良くなった。
今も結構仲が良い。ささらくんの家にネトフリ見に行ったり、スマブラで対戦したりする。
普通に大好きな友人だ。
ときどき、ささらくんは私のとても大切な友達だけど、沢山の人達がそう思っているんだろうなって思う事がある。
私にとっては数少ないともだちだけど、彼にとってはたくさんいる中の一人、みたいな。
本心を聞かせてくれたことだってないし、頼られたことも無い。
その理由は、彼が頭が良くて真面目だからだと思っている。長い付き合いの友人なんだ、それくらい何となくわかる。
それに、あの有名な、テレビで活躍する白膠木簓と友達だって、実感わかないし。
『えぇぇー!あかんやろー!』
「んふひっ」
テレビの白膠木簓のリアクションに、声がもれた。
笑い方きしょいから直さないとなといつも思ってる。でも誰もいないしいいか。
お茶でもいれよって思って立ち上がった時、ポケットの中のスマホがブルリと揺れた。
「…んにぃ?」
独り言こぼすのも変なとこやと思うから、直さないとな。
スマホの画面には、
[あかんあの、かぜで]
[あら、こえでんくて]
[しごと、すんません]
[ほんと]
なんて、言葉があった。
「ささらくん、や。」
びっくりした。
どうしようって思った。
誰かと、間違えてる。
たぶん、マネージャーさんかなんか。
人に頼るところなんて見たことの無い友人のそんな連絡に驚きながら、私はLINEを返した。
[たぶん間違えてるかも]
[とりあえずなんか持ってくね]
案の定既読はつかない。
まぁいいかと思いながら。それでも少し不安になりながら、私は少し急いで外に出る準備をした。