第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
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「おーい、起きろー!」
聞き慣れた騒がしい声と、嗅ぎなれた獣っぽい異臭で私は目を覚ました。どうやら私は誰かにおんぶされてるみたいだ。
「お前ゴミ捨て場で寝てたから拾っといた!ほら、お前ん家帰るか。」
「だ、いす、」
酷く臭いのに、その臭いを嗅いだら心が落ち着いた。その揺れにも、暖かさにも、声にも。
私は何だかとても淋しい夢を見ていたようだ。淋しくて、つまらない夢。
「わたし、ふられたんだ。先輩に。かのじょ、いたんだって」
「へぇ……!そうかそうか!」
「なんでうれしそうなんだよぅ。他人の不幸をおかずにしやがって。」
「人聞き悪いこと言うなよ!」
「…うぇ、うぇぇ、うぇえん」
涙が出た。
泣き上戸だからかな。
失恋の辛さと、淋しさと、それからどこかで感じる安心感で。
「うわっ!やっぱり!つむぎ酔うと泣き上戸になるのか!」
「うるへぇ!一張羅ではなかんじゃうぞ!ちーん!」
「うわぁぁあっ!?」
よく覚えていないけれども、私は夢の中で独りだった。
淋しくて、つまんなくって。
でもその気持ちは、今はない。
その事にとても安心している。
思いのほか大きくて逞しい背中にゆらゆらと揺られながら、私はのんびり月を眺めた。
「聞いて驚け!今日は大勝ちしたんだ!借金も返したし!お前と話もできるよーになった!よーし!一緒に美味いもん食うぞー!」
「へぇ、」
「リアクションひくっ!」
「こちとらふられたんだぞ!」
私がふられたというのに、コイツは勝手に盛り上がってるし、人の不幸を嬉しがっている。
なんてやつだ。
地獄の野郎だ。
地獄の野郎でぬらりひょんで野良猫以下で強欲で傲慢で。
でも淋しくは、ない。
「だ、い、すー!」
「んー?…っぐ、ぐぇぇっ!?ぐ、ぐびが、じまるじぬぅぅう!?」
おぶさっている腕に力を込め、首を絞めた。
私は首を絞めたかった訳では無いんだけれども。そこは、察してほしい。
「殺す気かっ!?なんで助けた人間に殺されそうになってるんだ俺は!」
「あのさ、」
「なんだよ!」
ちょっと怒り気味の悪友の、よく分からない髪型の襟足を引っ張り、私はこそりと耳打ちした。
「わたしも、相当寂しがりやさんみたい。」
彼は私の唯一の、親友なのかもしれない。