第1章 Reflexion,Allegretto,You [緑谷]
いつの間にか私を照らしていた光はどこかへ行き、
緑谷くんは、荷物を持って立ち上がった。
「僕もう、行くね。いろいろありがとう。」
「あ…うん。」
「糸滝さんは?」
「あ、私……も…」
声を、出したかった。
彼を引き止めたかった。
運命を、変えたかったんだ。
今まで、変えられらことはないから。
拳に力を込めて、
「み、緑谷…く…ん」
目を閉じて瞼に力を込めて、
口を必死に動かしているのに、声が詰まってうまく出てこない。
“まって行かないで”
“一緒に、いたい。”
この偶然を逃さなければ、運命だって変えられるって。
そんなふうに、理想を想う。
「なに?」
「ぁ……ううん。」
なにかひとつ。
ひとつでいい。
何かひとつを、変えたいの。
「……応援…してる。私…緑谷くんの…」
私は、君のこと。
「……さ、最初のファンに」
そこまで言うと彼は、笑った。
子供のような笑顔を見せた。生きていると面白いことがある、という風に、明るく。
「ありがとう。」
きっとこの先たくさんの人に、世界中の人に向けられる笑顔。
そのことを私は知っている。
彼が、私なんかに手の届かないところに行くことも、知ってる。
「…ばいばい。」
「うん。また、明日。」
閉じた扉に、頬が熱くなる。
鼓動がうるさくて、こめかみあたりが痛くなってきた。
さっきまで照らされていた胸には、もう何も。
遠くなってしまった日向に手を伸ばし、指を這わす。
「あったかい……けど…」
机に突っ伏して、目を閉じた。
胸が、熱いや。
もう、いいや。
もう、