第4章 こんにちは またあした [瀬呂]
腕を掴まれたまま、つむぎは硬直していた。
どういう、ことなんだと。
もう駅でふたりっきりのような気になる。でも周りの人の目が気になる。なんか笑顔かっこいい。おかしい。考えすぎかも。おかしい。というかなんの話だこれ。
変なことを叫んでしまったのももう記憶の彼方に行ってしまった。それくらい頭がフル回転している。
もう、なんかいろいろ、無理。
「ちょーっと、つむぎサン?話聞いてんデスか?」
「わか、りませ、ん。もう、あれで、ほん、に、ダメで。むり」
キャパオーバー、という言葉が出てこないほどの混乱だった。
「じゃー優しい瀬呂くんが、順を追って説明してあげましょう。」
「え、またれ」
「つむぎを前から良く目で追ってて、」
「ひっ、」
「イイと思ってたから、」
「ひぃいっ」
「付き合うとか、どーですかって、」
この、急展開だ。
やっぱりもう、いろいろ無理。
「いきなりなんなんだこの人ぉおおお!」
ふざけんなぁあああ!とつむぎは赤い顔をただ彼に向ける。
瀬呂くんは少しだけ驚いた顔をしたが、また余裕の笑顔に変わる。
「叫ぶな叫ぶな、駅だから。」
「さけんでだいでず!」
「意味わかんねぇ嘘つくなって。で、つむぎサン。」
彼の目が、少し細まるのを見て、つむぎはまた息が詰まる。
「お返事は?」
やっぱり、無理。
つむぎは必死に答えを練った。
答えなんて決まってるのに。当たり前に、ひとつしかないのに。
「どーすかね」
つむぎは目をつむって、熱々の顔を、ゆっくり、少しだけ、縦に揺らした。
いえす、ということで。
それが届くかどうかはまた別で良くて。
揺らし終わって、恐る恐る彼を見上げると、瀬呂くんは満足そうににんまり笑っていた。
「ひぇっ、」
笑顔の破壊力が高く、つむぎは声を漏らす。
「じゃー、明日からヨロシクってことで、」
「え、わ、まっ」
「ヨロシクな、彼女サン。」
「なんだこの人ぉぉおお!」
つむぎの絶叫が、また響く。
腕を掴んでいた手は、するする下り、つむぎの手を握る。アレ繋ぎ。…恋人。
また叫びそうになりながらつむぎは、ふっと思う。
明日は、私からおはようって、言えるんだ。