第3章 或る街の群青 [死柄木]
雨が降っている。
雨粒はしとしとと身体を濡らしたり、
頬をたたいたり。
すべて洗い流してくれるみたいに、
冷たいけれど、心地いい。
そんな感覚が、つむぎは好きだった。
つむぎは雨が、好きだった。
雨は、ここにいていいと言ってくれているようで。
何よりも優しい気がして。
今、空を見上げるつむぎを、
雨はゆっくり通過する。
今私に触れてくれるものは、雨。
つむぎは曇天に手を伸ばした。
私が触れられるものは。
私に触れてくれるものは。
目を瞑ったつむぎは、伸ばした手を引き寄せて握る。
雨を含んだ身体が、少しだけ重たくなった気がする。
「……川も海も雲も雨も、全部……一緒。」
それは昔に知ったこと。
おまじないの様に、唱えてきた言葉。
誰に言うでもないその声は、身を知る雨に溶けて消えていく。
「誰か、私を……」
つむぎは、雨が好きだった。