第2章 Hero Appears [轟]
「お疲れ様。」
つむぎが言うと、轟は声の元へと目を向ける。
「…見てたのか。」
「うん。優勝出来なかったね。」
「ああ。」
いつもより少し元気の無い轟の前で、つむぎはいつものようにからから笑った。
「見に来てたんだな。」
「当たり前だよ。」
「カッコ悪かっただろ、俺。」
「んー、ちっとね。そーいうの好きだけど。」
彼女はいつもと同じ、軽い口調でそう告げる。
背中の後ろで手を組んで、つむぎは大人のように目を伏せた。
「自分は、自分以上にはなれない。それだけだよね。みんなそうっ…てだけ。やっと、分かった…やっと向き合えた。」
それからにっと顔を上げ、少しだけ赤い瞳で彼を見つめた。目を逸らさず、隠さず。
「俺は俺…か。」
彼はそういうと、左眼の周りにそっと触れた。
自身の、痛みに。
「この個性も…迷って出さなかったのも、」
この痛みも
この憎しみも
この力も
「…俺でしか、ない。」
轟は、心の塊がさらさらと溶けていくような思いがした。
胸に手を添えたままゆっくりと顔をあげれば、そこには笑顔ですべてを吹っ飛ばす、“ヒーロー”がいた。
轟は、安心した。
「私、ヒーロー事務所のお掃除係とかのバイトしてみようかな。」
「え」
「やり方を変えてみるの。まだ諦めらんないしさ。」
図太く真っ直ぐな瞳は、キラキラと輝いている。つむぎは、心の底からの笑顔で写真をさすった。
いつかのつむぎと轟の、完全無欠の笑顔のツーショットを。
「…遅くなって、ごめんね。」
「なれてる。お前はいつも遅いから。」
「これでもすっ飛ばしたんだけどな。」
ふたりは足並みを同じに歩き出す。
ヒーローが、帰ってくる。
「ありがとな。」
言葉につむぎは轟を向く。
真っ直ぐ明るい瞳を見て、彼は言う。
「おかえり、ヒーロー。」
1度だけ目を見開いて、それから彼女は右手を左上にあげた。
『ヒーローは理屈を超えていく。』
左腕を曲げて左の腰に構える。
伸ばした右手は右側へ。
『ピンチの時は、必ず現れる。』
右側にいった右手は素早く引いて腰に構る。
それから左手は高く高く右上へ。
『ヒーローは、必ず現れる!』
「ヒーロー、けんざーん!!」