第10章 それでは、また明日[空却]
「他人の部屋でなにでかくなってやがる。」
部屋でゴロンと寝転がっているつむぎに言う。
「……ひるね…してた。」
「またか。」
バコっといい音がして、それに続いて鈍い痛みが届く。
「いて」
「おら起きろ。」
「らんぼー。」
「てめーが起きねーからだろ。」
むっくり起き上がって頭を搔く。
気持ちの良い午後、日が部屋の奥まで差し込んで、それはそれはキレイだった。
つむぎは起き上がってそのまま、濡れ縁へと体を引き摺った。
空却もどかっとつむぎの隣へ胡座をかく。
金色の瞳は、相変わらず透明で、聡明だった。
「拙僧もまだまだだな。」
「んー?」
「んや……まだまだ修行が足りんわ。」
「そうかな?今も充分すげぇよ。」
「いや……」
「そっか。うん。」
つむぎは、昨日一瞬見せたあの表情のこと言ってるのだと察した。あの表情好きだったのにな、と思ったけれど、大切な友人の修行の道を邪魔する訳にはいかない。
「中退したやつって、雇ってくれるとこあんのかな。」
「うち来いよ。そーすりゃ拙僧の仕事も減る。」
「それいーね。お寺…。あ私、無神論者だけどいい?」
「は、お前、そうだったんかよ。まぁ無理に信じろとは言わねぇけどよ。」
空却は珍しく驚いた顔をしてつむぎを見る。
あまり驚かない友人を驚かせたのが、少しだけ嬉しかった。
「今はまだ無神論者じゃないけど、いつかは。」
「……ふぅん。いつか、か。」
「あ、そういえばもう少しでバトルとかなんとかって、聞いたよ。」
「あ?誰に聞いたんだよ。」
「さっき十四くんから。」
「お前そんな仲良くなったのかよ。」
「まーね。」
「…よく見とけよ。」
「もちろん。」
「全部をぶつけてくる。」
「よろしくね。私の大事な地元がかかってんだから。」
「拙僧らの、な。」
くだらない、いつも通りの会話が庭に響く。
2人の大きな声のお喋りが。
心地よい風に包まれながらお喋りは続いて。
そして私は夕日に見とれる。綺麗だと思えることに、つむぎは安心した。
散々話してつむぎは庭にすっと立ち上がる。
「じゃあ、もうそろそろ帰ろうかな。」
「おう。」
空却に向かって手を挙げて、ニッと笑う。
つむぎは言う。
「それじゃあ、また明日。」