第10章 それでは、また明日[空却]
「それでは、また明日。」
適当につけていたテレビから、そんな言葉が聞こえる。
つむぎは無感情で画面を眺めた。
「あした、」
つむぎにとってその言葉に、意味はない。
関係ない。
つむぎは、手に持っていた薬のビンを、ことりと机に置いた。
空いた手で先程届いた箱を開けると、実家からの仕送りのレトルトカレー、米、その他もろもろが入っていた。それから端っこに小さなタッパーが。
そのタッパーには、小さな紙が貼られていた。
目はその手紙に、自然と吸い寄せられていく。
母の文字ではない無駄に達筆な文字に、つむぎは見覚えがあった。
【元気でやってんのか。こっちは特に変わりない。偶にはそっちの話も聞かせろ。】
「く…こ、」
もう何日もまともな食事をとっていない腹が何週間ぶりかにぐぅと鳴った。久しぶりに正常な働きをした腹をつむぎはすっとさする。
元気かな。
なんて、ひとつ思う。
ただ、それだけ。
その文字を見た時、つむぎの中で、今まで止まっていたなにかがとくんと再び動きはじめた音がした。
そうだ、あっちにもう一度。
あっちはきっと安全だ。
きっと“彼処”は、
なにもかも、大丈夫で、安全な場所。
なはずだ。
だから、もう一度だけ。
つむぎはゆっくり立ち上がり、何ヶ月も捲っていなかったカレンダーを捲り、日付を確認した。
机に置いたスマートフォンを掴み、連絡先を開いた。スマホに触るのが何日ぶりなのかは、分からなかった。
少し震えながらスマホを握り、もう一度あの文字を見てから画面をタップした。
『もしもし、お母さん。あのね____』
声は、少し震えた。