第4章 クジラの背中
【……俺の母親は、俺を命懸けで産んで命を落とした】
俺は何故か話すつもりのないことまで、チエに話していた
チエは、真っ直ぐ俺の事を見つめて話を聞いてくれた
よく覚えている
俺が初めてチエの目をしっかり見た瞬間だから
【……いい人に産んでもらえたんだね】
そう微かに微笑む姿はとても儚くて、今にも消えそうだった
そこにちゃんと居るのに、まるで幻を見ているような、変な感覚
【ああ。俺の恩人だ】
初めて、そう思えた。
今までどうして海賊王の子供なんか産んだのかと、自分の中で責め立てていたのに
母に、罪はない
そして、俺にもきっと………
【……なぁ、もし海賊王に子供がいたら…どう思う?】
ずっと、聞きたかった
幸せそうなやつに。
チエが幸せだと言うなら、何と答えるだろう
これまでが幸せじゃなく、俺と同じだとしたら…何と言ってくれるだろう
ずっと切望していた何かが、得られそうな気がした
【…きっと、大変な人生を送ると思うけれど、それは海賊王のせいなんかじゃない】
【は?】
アイツのせいで、俺は認められないのに
ただ海賊王の息子というだけで蔑まされる存在なのに
ロジャーのせいじゃないのか
【それは全部その子の人生だから。ロジャーが海賊王だからってその子は海賊王なわけじゃないでしょ。血が繋がってるってだけだよ】
血の繋がりが1番重かったのに、
それをなんて事ない、たかが血だと言う。
チエにとっては、そうなのか
【私の父は海賊だった。でも私は海賊じゃない。父は博打好きで乱暴者だった。でも私はそうじゃない。きっと母がそうじゃないから私も父とは違うんだと思う】
ロジャーの子はロジャーじゃないでしょ、と付け足して
【だから、エースはエースの人生を生きなよ】
あの時、何も言葉が出てこなかった。
ただ真っ直ぐ俺の胸に、突き刺さった
俺は忘れない
あの時、チエが俺に見せた表情を、眼差しを。
チエは昔から囚われない自由な人だった。
どんな時も真っ直ぐ見据えて、正面から受け止めてくれる
芯のある凛とした声で俺の背中を押してくれる
──…あの時から俺は、ずっとお前に惹かれていたんだ