第4章 クジラの背中
チエがこの船に来て3回目の真夜中
あれからずっと治療が続いている。
親父のために揃えられていた様々な医療機器は、親父の何分の1よりも小さいチエにぞろぞろとつけられて、まるで人造人間のようだ
「エース、あなたも少し休みなさい。輸血してからずっとそこに座ったままで…体に悪いわ」
1人のナースが、そう声をかけてくれるが、どうしてもここを離れる気にはなれなかった
あんなに血塗れで、死にかけたチエを俺は初めて見た。
治療のために服を割いても、その先には真っ赤に塗られた肉があるだけで人らしいシルエットは見えなかった
腕も、腹も、足も、頭からも血が流れ出て、何時間もかけて血を止めていた
ずっと傍に居たが、それはもう壮絶なものだった。
俺はドアの近くで立っていることしか出来なくて、ただただその光景に唖然としていた。
ようやく血が止まったところで、俺の血を輸血することになった。チエが助かるなら、俺はなんでもする。そう思ってしたことだが、透明な管を俺の血がチエに向かって流れていくのを見て、戸惑いか生じた
この血は、ロジャーの、鬼の血だ。俺はロジャーの息子で、鬼の子……。その血をコイツに流していいのかと
でも、チエと俺の血液型は珍しい方で中々居ないらしい。だから途中で辞めるなんてことも出来なかった。
「治療は全て終わったわ。恐らく今夜が峠よ。…どこもかしこも切り傷と打撲でいっぱい。骨折も3箇所ほど。それと傷口の炎症が酷くて…、痕が残るかもしれないわ。」
「そうか…。ったく、なんで海軍なんか」
包帯で包まれたチエの手を握って、額に持っていく
ナースはその姿に、何も言えずに静かに部屋を出た。
熱で苦しそうに息を荒くして、眠っているのに眉を寄せている。
全身包帯まみれで、肩ぐらいまでだった真っ直ぐな髪は、少しうねって背中ぐらいまで伸びていた。
身長も少し伸びた気がしたし、細かった手足も筋肉質になった気がする
1番は顔つきだと思う。あんなに鋭い目を向けられたのは初めてだった
俺が島を出て、チエと離れてどれほどの時間が経ったのか
その間に、こんなにもチエは変わってしまった。