第8章 Pandora
森の奥深くまで来ているせいなのか、陽の光が薄く、木々の緑も濃い。下へと続く回廊のような道はかつて使われていた時の姿を残している。
足を進めると、ラルーは私の耳元に体を寄せ、より一層体を強ばらせた。不気味なくらい生き物の気配がしない。けれど空気は穏やかで肺に満ちるとなんだか心地よい。生き物どころか木の葉が掠れる音さえしないのに、この道の上では何故だか鎖の音も気にならない。
ラルーの警戒心を他所に、私はどこか警戒心がほぐれていくような気もしていた
歩いてみると、木々の中心部には大木があるのが見えてきた。椎の木だろうか。幹は太く、うねるように四方へ広がり、道を下っていくに連れてその大樹が姿を少しずつ現し始めた。
道に反って生えている樹木は中心の大木ほどの太さは無いものの、長い年月を感じる安定感がある。そのうえに立てられた小さな小屋は、やはり長年使われていないのか木材も相当古そうだ。
鳥でも住み着いていそうなのに、全くその形跡が見えない。
一体ここは、何なのだろう
ここが一族の集落?
このすり鉢状の地形は自然にできるものなのだろうか
歩く度、何年分も積もった落ち葉に足の裏が沈みこんでは跳ね返すように次の1歩が自然と進む。肺に入る空気もしっとりと湿っているようなのに、吐き出す時には身体中の空気が綺麗なものに入れ替わっているような、いつもより深く呼吸できる感覚がある
木々の中を進んでいくと、それまで見えなかった木製の家が見えてきた。次第にそれが集落のようだと気づく。依然として中心部まではまだ距離があるのか、集落の奥に大木があるのか
根元は見えないまま、太く四方八方に広がり続ける幹だけが見えていて、なんだかやけにその木の存在が胸に引っかかる
『ここが……村……?』
確かに集落のような入口と思われるものがありながらも、その先には小さい家が3軒あるだけだ。
村の入口に1番近い家へ近づいてみると奥に畑だったのか、木のない雑草だらけの四角いスペースも見えた
家は屋根も壁も同じ薄灰色の木で作られた簡素なもの。窓にガラスはなく、ただ四角く穴が開けられているだけだ。扉は横にスライドさせる引き戸だが、隙間があき鍵のようなものは見当たらない。
人の気配はもちろんない。
安全な場所だと何となくわかるものの、初めて見る異様な村に警戒心と不信感が疼いた。
