第7章 追ひ人
【親父、、すまねぇ】
開口一番にエースの謝罪が甲板に響いた。
「勝手してんのはわかってんだろうな」
【…あぁ。】
受話器越しに聞こえるエースの声はとても重い。対する白ひげも険しい顔のまま応える。そんな2人のやり取りを見守る全員たちも思わず緊張し、顔を強ばらせた。
【無茶を承知で頼む…チエの命が危ねェんだ…!行かせてくれ…!!】
本来ならば直接頭を下げるのが筋というもの。それを破ってまでエースは文字通り飛び出して行った。もうああなってしまえば、白ひげとて止められないことは承知している。
「……息子の我儘を聞くのも親の務め、か。お前1人でどうにかなるのか」
呆れ半分、諦め半分にそう告げると、受話器越しに息を飲む音が聞こえた。それはエースだけでなく、会話を聞き届ける船員たちも同様だった
【わ、わからねェ。じじいは詳しいことは教えてくれなかったが嘘をついているようにも見えなかった】
「それは同感だ。チエが危ねェってのも本当だろう。助けに行ってやれ」
【親父…!ありが】
「だか」
背中を押す声に、エースはすかさず礼を言いかけるが、それは白ひげによって阻まれる。ピリついた空気と重低音が受話器越しても伝わったのだろう
「ケジメはしっかりつけてもらう。」
【…そのつもりだ。】
船から勝手に飛び出して、家族を危険に晒しているかもしれない。海軍の罠かもしれないのに、エースは無鉄砲にも行ってしまった。その責任をどう取るのか、皆が白ひげに視線を集めた
「チエをこの船に連れ帰れ!それがお前のケジメだ、エース」
【「!!!」】
エースだけでなく船員全員がわっと息を飲んだ。
「俺はチエを娘にすると決めた!!必ず連れてこい!」
【……!! 恩に着る!!親父!】
エースの声と仲間たちと雄叫びが相まって、クジラの船は地震のように僅かに震えた。高く上がる潮の代わりに、彼らの声が天まで響いた。