第5章 終局
「君は十全に戦った。そんな君をさらに追い詰める真似をしてすまなかった。後は私に任せたまえ」
クラウスさんは私を撫でる。
真っ白になった私の髪を。まだ癒えない、あのときの傷を。
「君は戦っている。今ここでも。
そんな君に、誰が寄り添わずにいられるだろう。
だから決して、己を恥じてはいけない」
そう言ってこの世界でたった一人の味方が、私にキスをした。
目をまっすぐに見て、私に語りかける。
「カイナ。どんな閉ざされたように見える道でも、開けぬ道など何一つない。
君があきらめずに前に進む限り!」
……例え恋仲になっていなかったとしても、クラウスさんは私を助けてくれたのだろう。
全てを奪われたった一人、孤独の暗闇の中でもがき苦しむ少女のために立ち上がってくれたのだろう。
そういう生き方を選んだ人なのだ。
涙が出そうになるが、ぐっとこらえる。
今はそんなことをしてる場合ではない。
「……すみませんでした、クラウスさん。タブレット、貸して下さい。
もう十分休んだから、魔術書をまた読みたいです」
「カイナ。だが無理をすることは――」
何だかんだ言ったくせに、結局甘やかしてくるなあ。
「無理したいんです。あなたのために」
手を取り、今度は私からキスをする。
褒められる目的では無く、私たちの未来をつかむため先に進みたい。心から思った。
それに、戦闘で私が出来ることは本当に皆無なんだろうか?
突き詰めて、危険と不安の壁を乗り越え、もっと考えてみよう。
私の魔術の一番の理解者は私自身。
クラウスさんのお役に立てる方法が何かあるかもしれない。
「私も、あきらめるのは止めますね。クラウスさん」
あなたが私をあきらめないでいてくれたから、私もまた光を見いだすことが出来た。
「君は勇気ある女性だ、カイナ」
ご冗談。私ほどその対極にいる奴はいない。
それでも。クラウスさんがどうしても道を見つけられず、世界の均衡のため私を封じる以外に無くなったら。
そのときは笑顔で受け入れよう。
私はこの先いつでも、迷わずこの人のため喜んで命を差し出す。
例え、もう生き返らなくとも。
心の中で一人静かに、そう決意したのだった。