第3章 禁断の果実
【 Satoshi 】
…あの日から、1年とちょっと。
俺は、相変わらず宅配の仕事を続けていた。
毎日、この宅配業者が借りているには不釣り合いな、高級マンションから仕事へ向かっている。
潤さんとはあれから1度も逢えていない。
けじめをつけると言っていたけれど、裁判が長引いているのかな…。
電話もしていないし、もちろんメールだって。
こんな風に1人で生活していたら、もう俺は捨てられたんじゃないかって凹む事もあった。
だけど、この部屋の家賃はきっちり支払われてるんだ。
それを考えたら、あの人は戻ってくるって
信じたくなる…。
絶対に帰ってくるって。
だから、俺はずっとこの1人では広過ぎる部屋で彼の帰りを待ってるんだ。
「ただいま…」
仕事から帰ってきて、誰もいない部屋に呟く。
…はぁ、裁判っていつまでかかるんだろう。
「寂しいな…」
『俺もだったよ』
不意に後ろから聞こえた声に、ばっと振り返った。…その人の姿に、すぐに目頭が熱くなる。
「潤さん…っ!」
潤「ただいま、智…」
俺はその胸の中に飛び込んだ。
潤さんの逞しくて、男らしい身体…。
ずっと味わえなかった温もり。
潤「智、少し痩せた?」
「そんな事ないです…潤さんこそ、凄く素敵になった」
潤「どうもありがとう…早速ですまないけど
2人でベッドに行こうか? 今夜は眠らせられそうにないよ」
「ふふ、俺も眠る気なんてありません」
潤さんの腕に抱えられて、そのまま寝室に直行した。
ここまでくるのに、凄い長い時間がかかった。
だけど、これからはそれを幸せなものに変えて2人で過ごしていく。
たとえ、どんな困難が待っていたとしても…。
俺はこの人を心から愛しているから。
【 END 】