第3章 禁断の果実
雅「そんな事よりさ、今晩1杯どう?」
「無理無理、俺疲れてるから」
雅「ええ〜」
俺は軽く相葉の誘いを断り、煙草を灰皿に
押し付けた。
「んじゃ先に帰るわ、お疲れ」
雅「おう、お疲れ〜」
俺の仕事はさっきの客で全て終わってた。
だから、俺はそのまま席を立ってタイムカードを押し家路に着いた。
会社からそれほど遠くない、家賃4万程度の
ぼろアパート。
その一階の、1番端の部屋が俺の部屋。
青のクマのストラップが付いた鍵を鍵穴に差し込んでドアを開けて中に入る。
俺は風呂を沸かす気になんてならなくて、
そのままベッドに向かい倒れ込んだ。
「明日シャワー浴びてこ…」
ベッドにうつ伏せに倒れたまま
目を閉じると、あっという間に眠りの中に落ちていった。
それから数日後。
この日もいつもと同じように、頼まれたものを
届けるために各家のインターホンを押す。
「…うし、これで最後だな」
最後の荷物の住所を確認し、車を走らせると。
「あれ、ここら辺って…」
少し胸に違和感を感じながら、目的地へと向かう。
そうして降り立った所は、やっぱり
あの日名前を聞いてきた奴の家の住所だった。
俺はそいつのマンションの部屋の前に立ち
1度深呼吸をする。
「…あの人ではありませんように」
そう願いながら、インターホンを押した。
それから数分後鍵が開く音がして、ゆっくりとドアが開く。
中から顔をだしたのは。
「あ…」
客『あれ、この間の…』
またあの人だった。
宅配業者の名前なんか気にする人。
客『やっぱり、顔馴染みになれましたね』
「そう、っすね…」
俺が曖昧に頷いても、その人は笑顔で俺に笑いかけてくる。
本当なんなんだこの人。
「あ、じゃあサインお願いします」
客『うん』
俺はサインの紙を渡し、その人が名前を書くのを
じっと見つめていた。
この人の名前『松本』って言うのか。
…綺麗な字だな。