第3章 禁断の果実
【 Satoshi 】
客『そうか、大野さん…ありがとう』
「じゃあ失礼します」
俺はその家を後にした。
…てか、なんだったんだ今の。
普通、宅配業者の名前なんて気にするか?
顔馴染みになるかもって、俺が毎回あの客の荷物届けに来るとも限らないのに。
なんか、気持ち悪…。
俺はそう思いながら、トラックに乗り込み
会社へとトラックを動かした。
会社に戻った時には、既に何人かの
仲間が宅配から戻って来ていた。
俺は真っ直ぐに喫煙所のベンチに腰掛ける。
ポケットからウィンストンを取り出し、
その中の1本を口に咥えた。
ライターで煙草に火をつけると、煙を体内に吸い込んだ。
「…っふう」
ああ、この瞬間が1番落ち着く。
この仕事は体力が基本となってくるから、こうやって一服しないと、こんなのやってられない。
煙草が入っていたのとは反対のポケットから
スマホを取り出してロックを解除した時。
『よお、お疲れちゃん』
「なんだ…お前かよ」
同僚の相葉雅紀が、俺と同じように咥え煙草
しながら隣に腰掛けた。
雅「なにそんな湿気た顔しちゃってんの?」
「いや、なんか変な客に捕まった」
雅「はい?」
「なんか名前、聞かれた」
雅「いやいや…それだけじゃ意味わかんないよ?
智は話に脈絡がなさすぎ」
「お前にだけは言われたくねぇよ」
俺からしてみれば、こいつだって
毎回話に脈絡なんかない。
雅「…で? どういう事なの?」
「だから、今日届けに行った先の客に
名前聞かれたんだよ、突然」
雅「まさかそれって…お前に一目惚れしちゃったんじゃないの?」
「んな訳ねぇだろ」
雅「分かんないよ? だったら名前なんて
聞くかよ、普通」
確かにそうだよな。
いや、でもそれだったら余計に…気持ち悪くねぇ?